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06


リビングに戻ると、さっきはソファに座っていたハルが、はあはあと息を弾ませたまま、上半身だけを倒して目を閉じていた。
おでこに手を当てると、さっきよりもずっとハルの体温は熱いように思う。
慌ててお水とお薬を持ってきて、ハルに飲めるか確認する為に耳元で小さく声をかけると、ゆっくりと瞼が開いて、虚ろな目が見えた。
こんなにも辛いくせに大人しくベッドに寝ていてくれないなんて、子供みたいだと初めて思った。

顔だけ上げてお水とお薬をごくんと飲み込むと、そのまま顔を下げてまた目を閉じた。

「ハル……? ちゃんとベッドで寝なくちゃ」

声をかけると、ああ、とかすれた声を出してから、ゆっくり起き上がった。
差し出した手は、ここでも振り払われてしまった。

「動けるっつってんだろ」

倒れちゃわないように後ろについて歩き、ベッドに入るまでを見届けた。
そのまま眠ったのを確認して、音を立てないようにそっと寝室から出る。今のうちに行っちゃおう。

すぐ近くのコンビニでお買い物をして、大急ぎで戻った。
足音をたてないように、そろりと動く。袋から出して冷凍、冷蔵庫それぞれに入れ、あとは寝室のサイドテーブルに並べた。

ベッドに視線を落とすと、飲んでもらったお薬が少しは効いたのか、ハルの乱れていた呼吸がほんの少しだけ、落ち着いたように見えた。……良かった、ちょっとは楽になったかも。顔や首筋に浮かぶ汗を拭いて、おでこに冷却シートを貼った。
……どうしよう、あとは何をしたらいいんだろう。少し落ち着いてるように見えるし、ここにいない方がいいのかな……隣にいて起こしちゃったらいけないし、やっぱり出た方がいいのかもしれない。
あ、そうだ、お粥ぐらいならあたしにだってちゃんとつくれる。
ハルにお布団をかけ直してからドアの方へ体を向けた。

「愛姫」
「え?」

名前を呼ばれて振り向くと、ハルがこっちをじっと見ていた。

「あ……ごめんなさい。起こしちゃった……」
「どこ行くんだ」
「あ、お粥……」
「いらねぇって」
「でも……」
「そんなもんどうでもいいからここにいろ」
「え? きゃっ!」

腕を引っ張られてハルの体の上に倒れ込んでしまった。……びっくりした……

「ハル?」
「どこも行くなよ」

え、何? ど、どうしたんだろう? 何か変だ、ハルの様子がおかしい。
捕まれたままの腕はそのまま、何とかハルが見えるように起き上がって、その顔を覗いた。小さく開いていた目が今は大きく見開いている。あまりに見つめてくるので、思わず視線を外した。

「あ、あの、あたし邪魔だから……!」

あたしの腕を掴んでいた手から抜け出して、立ち上がったけど、すぐにまた捕まってしまった。

「だから……ここにいろって……」

本当にどうしちゃったんだろう? 喋り方が変だ。ゆっくりなのは、きっときついからなんだと思う。声が違うのは鼻声だから当然だ。
でも、でも、何か、やっぱり……




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あきゅろす。
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