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俺の中には優先順位があって、その最上階にあるものが仕事だ。
その順位が揺らぐなんてことがあれば、今まで築き上げてきたものが根底から覆されるようなもので、それはそれは大した事件なんだが。
しかしその事件が起こってしまったのが、今日だった。

仕事も手に着かず、責任者の任さえ投げ出して、そのせいで会社が莫大な損害を被ろうともかまわねぇと思った。
今まで最優先で取り組んできた最上階にあるものが、あっけなく階下に滑り落ちたのだ。
頭の中にチラつく女の影を追い払うこともできず、それどころか、片隅に追いやることも出来ねぇ始末だった。
心配事があろうが脳内スイッチを切り替えて、きっちり仕事をするのが当然だった。それが自分という人間だったのだ。
それがどうだ、この体たらくぶりは。

前に田中に仕事を押し付けて帰ったことがあったが、それは商談の結果をまとめるだけの、普通なら新人にやらせるような作業だ。
少なくとも俺は、自分の仕事はそれなりのプライドと責任を持っている。
しかしその責任を追及されるような、責め苦をくらっても文句は言えねぇ行為をしたのだ。
―――まったく大事件だ。
だが、それを後悔しているのかと聞かれれば、それはない。

眼下で泣き笑う女を愛しいと思うのも事実。面倒を背負い込み腹が立っても、手放すことができねぇのも事実。
……重要な役割を放り出し、女を優先してしまったことも事実。

どん底にまで落下してしまうのも、そこから飛び上がるのも、俺の言動一つだ。ここまで何にでもいちいち影響されてちゃ、こっちだってたまったものじゃねぇんだが。
それでも自分に対する思いがそれだけでかいのだと考えると、それもそう悪くねぇ気分になるような、そんな自分がいることも事実。

……愛姫のせいで変化していく自分というものに、僅かにショックを受けようが、事実は事実。受け入れるしかねぇんだ、どうせ。

自分の現状を恵まれているとも、祖母に昔しつこく言われた『果報者』だとも、俺は絶対に思わねぇが。
手を伸ばせば届く距離に惚れた女がいるということ。
それだけは、自ら進んで受け入れるに足るほど、恵まれているのかもしれねぇ。

とはいえ、面倒なもんは面倒で、それを持ち込まねぇ努力を望むことは、言うまでもないが。



FIN.
→後書き*オマケ

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