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「お前は自分がやれることを一つ一つやればいい。それから……何に関しても、努力をするなら俺の為じゃなく自分の為にやれ」
「……ッ! でも! でもハルに……」

ハルに喜んでもらいたいんだと、だんだん小さくなっていく声とは対照的に、力のこもった目をして訴える。

「お前が本当に、自分の為にやるってんなら、何をするにも少々の無理には目を瞑る。経過がどうであれ結果がついてくるってことが分かったからな。それでお前が成長できるなら、それは俺も喜ぶどこだろ」
「……それがハルの嬉しいこと……?」
「上司としても、お前の相手としてもな」
「……は、い……」
「喜ばせたいんなら、精神的にも体力的にも、残量を見極めて体調管理をしっかりしろ。分かったか?」
「……」
「分かったか!」
「はい!」

泣きながら大きな返事をしたとこで、頭から手を引いた。
愛姫がハンガーにかけたジャケットを取りに行き、内ポケットを探る。

「反省もしてるみたいだしな、いい加減に説教はここで終わっとくか」
「え……?」
「やるよ」

中にあるものを投げ渡すと、うわっ! と焦った顔で手をばたつかせながら、何とか受け止めた。
ゆっくり手を開き、それを確認した愛姫の表情が、くしゃりと崩れた。

「……! 鍵だ!」
「言っとくが、」
「ちゃんと振り向いて鍵を閉める!」

念を押すつもりだったが、俺が言う前に、愛姫がその先を引き継いだ。

「そうだ、忘れるなよ」
「はい!」

最高の笑顔で返事をした愛姫を見て、もしかしたら、さっきまでのやりとりがすでに飛んでしまったんじゃねぇかと思った。
が、さすがそこまでの馬鹿ではかったらしい。

嬉々としてキーホルダーに鍵をつける姿を、新しくタバコをくわえて見ていると、ぶつぶつと何かを呟いている。
耳をそばだて聞いてみると、箇条書きをしたメモを読んでいるかのように、俺の言いつけを復唱していた。
うん覚えた! と顔を上げ、こっちに灰皿を押しやりながら、約束は守ります! と右手を上げて見せた。

「ああ、まあ頑張れ」

まだ少し悪い顔色で、まるで何事もなかったように宣言してみせた愛姫に、わざと抑揚をつけずに関心もないような言い方で返事をした。




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あきゅろす。
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