[携帯モード] [URL送信]
21


やっと落ち着いた愛姫の顔は、涙だけじゃ足らずに汗と鼻水にまみれ、髪の毛まで乱れている。
汚れてしまった顔を拭い、張り付いてしまった前髪を直していると、もう一度、今度は愛姫の方から抱きついてきた。

「何だよ、暑い」
「も! もうちょっと!」
「甘え過ぎじゃねぇのか」
「だって!」

くっついてきた体から響く心臓の音が早い。
珍しく自分からすり寄ってきた愛姫が、遠慮がちに甘えてくるのは素直に嬉しかった。
あからさまに聞こえる鼓動が可愛く、熱を帯びて赤くなった顔で笑ったのが、また可愛いと思ったことは口に出せはしねぇ。

「愛姫」

名前を呼んで、ふいに上がった顔。
腫れてしまった瞼と唇に口付けた。ついでに耳を噛んでやると、ひゃっ! と声を上げて体をぴくんと揺らす。
色気のねぇ声だとからかうと、もういい! と言って腕の中から抜け出た。

顔を洗いに行ったのを待っている間にコーヒーを温め直し、愛姫のカップに注ぐ為の紅茶を用意しようと探したが、いつもの場所には見当たらなかった。常備しているはずのココアも何もない。
そういえばと思い出し、冷蔵庫を開ける。中には俺が買ってきたものがある他には、料理をする為の材料どころかまともな食いものが入っていねぇ。
買い物に行く暇もつくってなかったのだ、この馬鹿は。思いきり怒声をぶつけてやりたくなったが、やっとの思いで耐え、代わりに肺から出せるだけの息を吐き出した。
戻ってきた愛姫にどれぐらい食ってないのかを確認すると、昨日からだと言う。それこそ殴ってやりたくなったが、それも無事に耐えてみせた。
食欲がねぇと言っていたが、とりあえず俺の話は終わり、愛姫の気分はご機嫌だ。すぐにでも訴えてくる。

「……お腹空いた」

ほらな、案の定これだ。
食わせようにも食材がねぇ。大量に買っておいて正解だった。冷蔵庫から取り出して投げ渡すと、大きく破顔した。

片手に残りのヨーグルトとゼリーを積み重ね、片手にカップ二つを持って部屋に行き、テーブルに並べて愛姫の隣に座った。渡したカップの中は、なかった愛飲品の代わりに淹れたミルクコーヒーだ。




*←→#

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!