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抱き上げた時、すでに見えていた。頬に残る、雫が残した道筋と、まだ光る睫。
ここまで追いつめるつもりはなかった。―――どうしてこうなった?

愛姫が変わったのは、怒鳴りつけて鍵を取り上げた数日後だ。よく思い出してみると、だが。異変に気づいたのはもっと後だ。
最初の三日ぐらいは、珍しく集中力が持続していると思った程度で、勤務時間外は何の変化も見られなかった。愛姫にしてはよくやっていると、そんなことを、心中で呟くぐらいはしたか。
それから更に日数が経過すると、仕事場の空気がいくらか変化した。ちらほら他の奴らもざわつき始め、更に継続すると、さすがに俺も気にはなった。
人並みに使えたところで、それを簡単に褒めてやるようなことはない。他の奴らが普通にできていることぐらいで、愛姫だけを手放しで褒めるわけにはいかねぇ。が、分かってはいる。あらゆる場面で、認めてもらいたいと思っているのだ。他の誰かじゃなく、俺に。あらゆる場面で、だ。

俺が怒鳴って言い聞かせたのは、たかが鍵のことだったのに、愛姫はいちいち極端に考えすぎる。どうしてそこまで勝手に自分を追い込むのか。
俺が厳しくしすぎるのか。いや、当たり前のことしか言ってねぇだろ。
確かに鍵を取り上げはしたが、仕事まで完璧にやれとは言ってねぇんだ。だいたいちょっと怒鳴られたぐらいで、いちいちここまで落ち込まれちゃろくに注意もできなくなんだろうが。
あーくそ、飲めねぇ酒を飲んで酔いつぶれるとかアホか、お前は。

今、俺の肩に頭を預けて眠るこのクソガキは、本当にいちいち面倒くせぇ。……ああ面倒くせぇ。
放り出せたらそれはそれは楽なんだろうが、そんなことはできねぇんだから、考えるのは時間の無駄だ。
ああ本当に面倒くせぇな。言われた仕事をこなすのは当然だが、お前はそれより先にもっと基本的なところで、やるべきことがあるはずだ。




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あきゅろす。
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