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09


だいぶ酔いが回ったデコスケの愚痴や悪態の連発に嫌気がさし、さあ帰ろうと席を立った時、携帯が鳴った。
愛姫の名前を確認してから電話に出ると、聞こえた声は違う女のものだった。

「……大沢か」
『はい。すみません、勝手にかけさせてもらいました』
「愛姫はどうした」
『それが寝ちゃいまして……迎えに来て頂けるとありがたいんですけど』
「……どこだ」
『会社の近くのバーです』
「すぐに行く」

大沢は場所の説明をしようとしていたみたいだが、会社の近くとだけ聞けばじゅうぶんだった。前に愛姫が逃げ込んだあの店だ。
話している途中で電話を切り、店を出て、タクシーに乗り込んだ。

店に着いてドアを開け、真っ先に目に入るカウンターに女二人の背中があった。

「おい」

声をかけると、振り返った大沢が頭を下げた。その横の突っ伏しているのが愛姫だ。

「田辺さん、わざわざすみません」
「酒飲ませたのか」
「どうしてもって聞かないから、あの、カクテルを少し……」

愛姫を見下ろして息を吐いた俺を見て、言い訳か説明か知らねぇが、大沢が喋る。電話の時とは違い、不安感が含まれた声だ。

「こいつに酒は与えるな」
「すみません。……苦手だとは聞いてたけど、まさかこんなに弱いなんて」
「弱いんじゃなく飲めねぇんだよ。体が受け付けねぇ全くの下戸だ。少量どころか一口でも体に入れればこうなる」

すみませんと小さな声で謝る大沢の隣に腰を下ろし、ウィスキーを注文した。横にいる大沢はずいぶんとたじろいだが、そんなことはどうでも良かった。愛姫を相手にしているわけでもない。

「……愛姫の様子はどうだった」
「どうって……かなり疲れてるみたいですね」

言いながら愛姫に視線を移して眉を歪ませる大沢も、こいつを心配をする一人だ。

それきり黙り込んだ大沢の隣で二杯目を注文し、次に言葉が出てくるのを待った。

「田辺さんが原因だと思うんですけど……」

喉を鳴らして息を吸い込み、体ごとこっちを向いて、決意めいた気配を晒した大沢が、口を開いた。

「あ?」
「だから……最近の愛姫がおかしいって言うのなら、それは田辺さんのせいです」

タバコの煙を吐き出して、左に目線だけを移して大沢を見やると、びびったのか、その目が大きく開いた。




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