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08


「それで?」
「どんなに小さなことでも褒められるといつも嬉しそうに笑うのが愛姫ちゃんだろ」
「それが取り柄だからな。素直さがあいつの売りだ」
「いつもは頭に手を乗せた瞬間に満面の笑みになる」

それが昨日は俯いてしまった、と田中が首を傾げる。愛姫ちゃんらしくない、と。
なるほど。このデコッパゲはその様子を心配して、俺を誘ったようだ。

「ああ、そりゃおかしいな」
「だろ? だよな、仕事とお前との関係以外であんな顔になることも珍しいしな。お前は何か気づいてることとかねぇの?」
「ある」

何? と、こっちに顔を向けた田中の顔に拳を叩き込んでやった。

「……おいこら……何で俺が殴られんだ! 痛ってぇな!」

鼻を抑えて文句を言いながら迫ってきたとこに、もう一発くれてやった。

「何すんだ!」
「お前こそ何してくれてんだ。部下を褒めるなり励ますなりするのは結構なことだが、無駄に触れてんじゃねぇよ」
「ちょっとしたスキンシップだ! 手を出したみたく言うな!」
「スキンシップだ? そんなもんは他でやれ。もう一度やってみろ、次からお前の仕事は茶汲みと便所掃除だ」
「上司という特権をふさげた脅しと嫌がらせに使うな! ……この……腐れ専横者!」
「個人の特権だ、クソッパゲ。人のもんに無断で触るなっつってんだよ」
「……いや、別に触ろうと思ってるわけじゃねぇんだけど。なんかな、違うんだよ、だってしょうがねぇじゃん! ついってやつだよ! いいじゃねぇか! 親戚のオッサンみたいな心境だから!」
「お前の心情がどうでも、とにかくあいつには触ってくれるな。他の奴になら何をどうしてくれてもいい」

田中が言っていることは存分に分かる。最近の様子を見れば、心配するのも無理はない。
頑張る姿勢に結果が伴うのは本人にとってもいいことのはずだ。しかし愛姫の場合は不自然さが際立っているせいで、仕事は捗るが、他人は余計な気を回す。それは分かるが。
親戚のオッサンの心境だと言ったあれも、まあ……あいつと接していれば他意があろうとなかろうと、そんな気分になるもんだ。これはあいつの取り柄の賜物だが、俺からすれば実に迷惑な話だ。

「あいつの面倒を見るのは仕事面だけでじゅうぶんだ。精神的なとこまで介入するな」
「……だったらお前がどうにかしてやれよ。あれじゃそのうちパンクするぞ」

ああ、そんなことは分かっている。

「……そうだな、それは俺の仕事だ」




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あきゅろす。
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