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07


そんなことがあってから、俺の前ではどんな些細な失敗もおかさないように、細心の注意を払っているようだ。こいつの仕事ぶりは何を間違えても完璧とは言えるものじゃない。到底そんなことは言えやしないが、あの怒鳴りつけてやった日からこっち、どうしたことか人並みに仕事ができている。
上司という役割から言うのなら、余計な時間を食わずに手間も減る。これは他の社員達にも喜ばしいことだった。
以前に比べ、格段にスキルアップをしていることは間違いないが、それを見積もっても、最近の愛姫は普通に使えるようになっている。自分の女だから甘く評価しているわけじゃなく、純粋に上司としての評価だ。
―――実に喜ばしいことだ。

「聞いてんのか」
「あ……?」
「だからさ、ここんとこ、愛姫ちゃん頑張ってるよな」

久しぶりに定時に仕事が終わり帰宅準備をしていると、女が一人、顔を覗かせた。人事部の人間で、名前は確か大沢未央といったか。見つけた愛姫に声をかけ、俺をちらりと見たあと出て行った。
同時に駆け寄ってきた愛姫が、ご飯に行ってもいい? と、伺う。気をつけて行ってこいと見送り、愛車を迎えに地下駐車場へ降りた。
そこで捕まった。
誘われる前に、断る、と先手を打ったが、諦めずにずうずうしく車にまで乗り込もうとしてくる田中を蹴り出した。地面に転がされてもしつこく喚くので、仕方なく居酒屋に入った。
……うぜぇ。

「ああ、あいつはよくやってる」
「ご褒美の一つや二つあげたくなるぐらいだしな。他の奴らもどうしたんだって騒いでる」
「何だって?」
「森下のすすり泣きと部長の怒鳴り声が聞こえねぇなって」
「それだけ愛姫がまともになったってことなんだろ」
「お前は愛姫ちゃんには他よりも厳しいからな」
「そんなわけあるか。俺はくだらねぇ失敗をした奴には平等に怒鳴るし公平に泣かす」
「その数も減って実に平和だ。仕事もはかどる」
「褒めてやりてぇんなら愛姫に直接言ってやれよ」
「もう言ったんだよ。すごいな、頑張ってるなってさ」
「ふーん、あいつ喜んでたろ」
「……かと思ったんだけどな」
「は?」
「いや」

一度言葉を区切り、田中がその時の様子を思い出すように、視線を宙に浮かべた。

「この調子で頑張れば、そのうちもっと大きな仕事もまかせられるようになるって言って、軽くぽんぽんっと頭に手を乗せたんだけど……」

表情は固く暗かったんだよな、と続け、怪訝そうに腕を組んだ。




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あきゅろす。
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