02 注意をすること何度目だ? 最初から今まで、この女は一回も鍵をかけていたことがない。自分の家でできることが、ここでは一回もできやしねぇ。 小学生でも簡単にできることが、成人したお前がどうしてできない。 その都度うるさく言われることに嫌気がさしたのか、次にできなかったら合鍵を返すと言い出したのは、俺じゃなく愛姫の方だ。 「ごめんなさい」 「聞き飽きた」 「……ッツ、だっていろいろ考えてたら忘れちゃうから」 「知らねぇよ」 仕事での失敗も前に比べれば少なくなり、比較的早く帰れることが多くなった愛姫は帰宅後、料理をしてみたり、風呂の準備をしたりと、かいがいしく動いている。本を見ながら下手は下手なりに夜飯づくりを頑張っているのだが、同時に多数の動作ができない。レシピを考えながら帰れば鍵をかけることを忘れる。風呂掃除をして入浴剤を何にするか、そんなことを考えていればまた鍵を忘れる。おそらく今日は、DVDを買ったことを伝えていた為に、それが楽しみで他のことは頭になかったのだ。 俺だって何も頭ごなしに怒っているわけじゃなく、何度かはなるべく優しく注意をし、次は次はと言うのを聞いていた。が、驚くことに一回も守れたことがない。 「子供でもできることだぞ」 「分かってるのに忘れちゃう……」 「だったら忘れねぇようにたたき込め。できねぇようなら鍵はもう無しだ」 言いたいことを飲み込んだのか、悔しそうに喉を動かしながら頷いている。 「反省しとけ」 落ち込む愛姫を放置して部屋を出る。 スウェットに着替えて洗面所に行き、手と顔を洗ってキッチンに向かう。 いくら怒って反省をさせても、飯抜きにするわけにはいかず、何を食わせようかと考える。 「もういいからDVD見てろ」 背中越しに感じた気配に振り返ると、愛姫が暗い顔で突っ立っている。 声をかけたが、何も言わずに動かない。あーくそ…… 「リクエスト聞いてやるよ。食いてぇもんは?」 「……ロールキャベツ」 「今からか? 面倒くせぇ……材料あるならな。探せ」 そそくさと冷蔵庫の中を漁り、野菜や肉を出してきた。トマト缶を持っているってことは、自分がつくろうと材料を買ってきていたということか。 「お手伝いする」 「いらねぇよ。邪魔だからあっちで続き見てろ」 *←→# |