01 玄関の扉を開けると、丁寧に揃えられた靴があった。金曜の夜は帰宅時には女物の靴を見る。 廊下を真っ直ぐ進んだ先の、磨り硝子の扉は煌々としている。 ネクタイを緩めながら、ふっと一息つくと、靴を脱ぎ、一気に部屋まで突き進む。 「おい! てめぇの耳は抜け穴か!」 いきなり怒鳴られたからか、いきなり帰ってきたからか、そうでなければ不審者が現れでもしたと思ったのか、まあそれはどうでもいいが、とにかく愛姫は飛び上がって驚き怯え、直後、マネキンのように固まった。 「毎度毎度、同じことを言わせるんじゃねぇよ!」 「……」 「そんなに怒らせてぇのか!」 「お、おか……っ、おかえりなさい……!」 鞄を投げ出しコートを脱ぎながら、部屋の様子を確認する。 一緒に行きたがっていたが、結局は行かなかった映画のDVDを見ていたようで、テレビの中ではおもちゃの人形達が暴れまわっている。 「出せ」 「……やだ」 「今すぐ出せ!」 「やだ!」 「てめぇ……これで何度目だ?」 ここぞとばかりに忙しくなることが多い週末の夜、先に会社から出た愛姫は、渡した鍵を使って俺の部屋に帰っている。 合鍵というものを渡してから、使うまでにはけっこうな時間がかかった。が、一度使ってからは、必ず週に一度は誰もいないはずの自分の部屋の中、ブラインドの隙間に見て取れる灯りを外から知ることがある。 最初のうちは、遠慮がちに照れながら待っている姿を、それこそ微笑ましい気分で眺めていたものだ。 「お前が自分から言ったことだろうが」 「……でも」 「仮にも社会人なら責任もとれねぇことを口にするな」 「……はい」 「分かったらとっとと出せ」 愛姫の目の前に手のひらを上に向けて差し出すと、何か言いたげに顔を見上げてきたが、結局はバッグから鍵を取り、俺に差し出した。 キーホルダーから一つを抜き取り愛姫に返す。 *←→# |