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イナズマイレブン
まだ

「あれ?修也くんかな?」

不意に聞こえてきた声に、触れていた頬の手を離す。そっと背後を、扉の方を伺い見てみると、あの優しげな男性が、芦川さんがいた。
「あ・・・こ、こんにちは・・・」
「こんにちは、久しぶりだね」
にっこりて微笑む芦川さんは、少し疲れた様子だった。ということは、やはりまだ目を覚まさないのだ。
芦川さんは俺の隣まで来ると、美鶴の頬をひとなでした。
「・・・気の毒だったね、夕香ちゃん」
「あ・・・いえ・・・」
寂しそうな笑みを浮かべる芦川さんの瞳は、依然眠ったままの美鶴。触れて確かめなければ生きているか不安になってしまうような青白い顔をした美鶴は、やはり動かない。

夕香みたいだ。

夕香も、もう半年以上目を覚まさない。
触れないと、その温度を確かめないと、かすかに上下する胸では不安になってしまうのだ。俺も、この人も。

「大丈夫・・・です」
「修也くん?」
「目を覚ますので・・・夕香も、美鶴も」
じわりと、視界が滲む。
母さんが死んでからずっとずっとこらえていた涙が、今、溢れ出す。

「くそっ・・・!」
溢れた涙は止まらなくて、俺は乱暴に腕でぬぐった。
その腕を芦川さんに掴まれて止められ、霞む視界で見上げれば、優しく抱きしめられた。
「っ・・・」
それから暫くは、俺が泣きじゃくる声と、芦川さんが鼻を啜る音だけが響いていた。

中学一年の冬、二人はまだ目覚めない。

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あきゅろす。
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