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イナズマイレブン
握手


その日の一限は担任の授業で、丸一時間を転校生との質問親睦会と化した。
美鶴さんと両サイドの机を囲んでクラスメイト、特に女子が。
「美鶴さんは日本のどこから来たの?」
「お父さんの仕事で来たんだよね」
「イギリスにはずっといるの?」
怒濤の質問をふんわりとした笑顔で答える美鶴さんに、みんな好感を持ったらしかった。かくゆう私も、一つ一つの動作から彼女の真面目で優しい人柄が現れていて最初の印象はいいと言えよう。

ちなみにこの時間彼女の話を聞いて驚いたことは、日本とイギリスでは学校生活が異なることだった。
まず生徒が教室を持っていることがありえない。普通生徒が教室を移動するものなのだが、日本では教師が移動するらしい。生徒が掃除を行うのもあり得ないこと、いちいち式を開いたりみんなで同じ昼食を摂ったり。
それら全ても、彼女が独自に調べて教えてくれたものだ。
ちなみにうちの学校は教室移動をしても席は固定。だから私は常に彼女の隣で、異文化で生活していた彼女を、物珍しさからよく観察していた。こっそりだが。



そんなある日のことだった。美鶴さんが転校してきて2週間、そろそろこちらでの生活に慣れてきたであろう頃、珍しいことが起こった。

真面目で優しく、どんなことでもきっちり丁寧に、しかし迅速にこなしてしまう美鶴さん。全員がそうじゃないことは分かっているのだが、ついついさすが日本人と思ってしまう。そんな彼女が、忘れ物をしたのだ。
「あの、バルチナスくん・・・」
細い声で話し掛けられ、心中で驚いたものだった。
その時忘れたのは数学の教科書で、私は机をくっつけてその真ん中に教科書を開いた。
美鶴さんが左利きで、肘がぶつからなくて丁度よかった。
「ごめんなさい」
「いえ、このくらい大丈夫ですよ」
直ぐに弱々しく眉を下げる美鶴を笑顔で制すれば、戸惑うようにかすかに微笑んでくれたのを、私は見逃さなかった。


「ごめんなさい、ありがとう」
授業が終わって、美鶴さんはすぐに眉を下げた。どうしてまず謝罪するのだろうか。
「謝らなくてけっこうですよ」
「ごめんなさい・・・」
ああほらまた・・・。
やんわりと微笑んでも、すぐに俯いてしまう。引っ込み思案なところがあるせいなのか・・・。
「どうしてそんなに謝るのですか・・・。あなたに非があるわけではないのに」
「ご、ごめんなさい・・・」
しかしまた謝罪する美鶴さんに、思わず困ってしまう。
もはや癖なのだろう、雰囲気で仕方ないと語られては何も言えない。

「・・・でわ名前で呼びましょう」
なにが『でわ』なのか自分でも全くわからないが、言ってしまっては仕方ない、強行突破でいきましょうと頭の隅で考えた。
「エドガーでいいので」
「で、でも・・・」
「敬語もいいですよ。私にだけ使っていてはややこしいでしょう」
「でも・・・」
実際彼女は他の人には敬語を崩している。人としゃべっていること自体少ないのだが、私が見る限りそうだ。
しかしなぜ私には渋るのか。その答えは、彼女の口から直ぐ様明かされることになった。
「バルチナスくんは敬語なのに・・・」
私のせいだったのですね・・・。しかし、
「私のこれは習慣のようなものなので」
だから問題ありませんよと言ってみるも、まだ渋る。
「でわ私も呼び方を変えます」
「え?」
「これからよろしくお願いいたします美鶴」
すっと片手を差し出してみる。その手を美鶴は、恐る恐るといった体で握った。
「よろしく・・・エドガー・・・?」


握った手は薄く、その指は異様に細かった。




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