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イナズマイレブン
一夜


「あの、ところで今って何時ですか?」
そういえば私が寝たとき日が沈みかけてた気がする。早く帰らなきゃいけない。
「えっと、8時過ぎかな」
腕時計に視線をやりながらのフィディオさんの言葉に、サッと血の気が引く。
なんてことだ。きっと今頃大混乱だ。特にミレーネが。お父さんは、今日はいない。
「か、帰らなきゃ・・・!!」
ばさっとタオルケットをはねて立ち上がれば、ひ弱な足が悲鳴を上げた。私の体は前のめりに倒れかけた。慌ててアンジェロさんがベッドに押し止めてくれなかったら、間違いなく転んでいただろう。
「立ててないじゃないか」
「無理はよくないと思うよ」
ラファエレさんとマルコさんにも言われたけれど、本当にそうゆうわけにはいかない。
「でも、携帯の充電も切れて・・・。連絡入れてないの。心配してるわ」
ポケットに入れたままの携帯を開いて見せれば、真っ暗な画面がみんなの顔を映す。
「・・・」
そんな画面を見てから、ジャンルカさんが無言で携帯を差し出してきた。
「・・・え」
「連絡、入れなきゃマズイんだろ?番号忘れたなら島の局に掛ければ繋げてくれるはずだから」
だからはい、と私の手に握らせた携帯を開けば、夕焼けの待ち受けが映った。
「ありがとうございます」
ジャンルカさんが頷いたのを確認して、番号を打ち込む。

『もしもし!お嬢様!?』
「ミレーネ」
1コールで出たミレーネは、よかったと息をついた。

私がかけた先は、ミレーネの携帯だった。

「ごめんね、足が動かなくって・・・」
『もう・・・どこにいらしてるんですか?私もう心配で・・・』
「今オルフェウスに・・・」
『オルフェウス?!』
キン、と耳に響く声に、思わず携帯を離す。
『向かえにあがります!』
直ぐ様切れてしまった通話に、私は思わず苦笑した。

「ありがとうございました」
パチンと閉じてジャンルカさんに返せば、どういたしましてと微笑を返してくれた。
「家の人、なんて?」
「向かえに来るって、切られちゃいました」
アンジェロさんの質問に答えれば、泊まってってもいいのに、と呟かれた。
「そうゆうわけにはいきません。それに、うちは特殊で・・・心配なんでしょう」
お心遣いありがとうございますと微笑みかければ、わかったと笑ってくれた。
「てかアンジェロ、男所帯に泊めるのはいささかマズイよ」
「あそっか!」
そういえば、ここは男の子しかいないんだっけ。アンジェロさんで錯覚してた。

アンジェロー、とマルコさんにからかわれるアンジェロさんを見ながら、性別詐偽ってこうゆうのを言うのかなーなんて呑気に考えていると、ふいにジャンルカさんが隣に腰掛けた。
ギ、と微かにベッドが軋む。
「はぁ、騒がしい・・・」
「でも」
呆れたように呟く彼に、楽しくていいと思います、と告げれば、そうかなと微笑まれた。

「あ」
「?」
不意に思い付いたように私を見るジャンルカさんを、私も見つめ返した。
「敬語、やめようよ」
「ふえ?」
なんか前にも聞いたような言葉。
「歳変わらないだろ?」
「う、ん。ジャンルカ・・・・・・?」
「ん。よろしく美鶴」
にっこりと笑顔を向けられ、自然と私も笑顔になる。すると驚いたように軽く目を見開くジャンルカ。
私、なにかしたんだろうか。軽く小首を傾げると、
「あ、俺もタメで!」
「俺も!」
他のみんなにズイッと寄られて、僅かにのけぞりながらわかったと言えば、嬉しそうに目を細められた。
「そうそう。それがいいよ」
アンジェロがにっこりと笑った、その時。

キキィっと、タイヤの擦れる音が響いた。

「迎えじゃないか?」
窓を覗いたブラージの言葉に、ジャンルカの手を借りながら窓に近付けば、乗用車から降りていそいそと玄関に向かって走るミレーネが見えた。
メイド服ではなく、ブラウスと膝丈のパンツを合わせた格好で来ていた。
「行こうか」
「うん」
ジャンルカはしっかりと支えてくれて、社長の長女としてじゃなく、一人の人間としての気遣いがとても嬉しかった。


「お嬢様!」
玄関まで来ると、嬉しそうに笑みを浮かべるミレーネがいた。
「心配したんですよ!ああよかった・・・」
胸に手を合わせながら近寄ってくるミレーネにごめんなさいと謝ると、ジャンルカが私をミレーネに渡した。
「彼が、動けない私を運んでくれたのよ。アンジェロたちも」
ジャンルカが運んできた子だ、と集まってくるオルフェウスのみんなを紹介すれば、私を支えながらミレーネが満面の笑みで頭を下げた。
「いえ、ほとんどアンジェロなのでー」
「そうそう」
申し訳ないけど名前を知らない選手がいえば、ラファエレが同意した。

「本当にありがとうございました。さ、参りましょうお嬢様」
まあ、ミレーネに支えられているから、参るもなにもないんだが。ええ、と頷いて歩き出せば、
「美鶴」
ジャンルカの声に振り返れば、優しげに細められたたれ目がちのそれと合った。
「よかったら、またおいでよ」
「あ、ミレーネ・・・さん?も!」
付け足すように勢い込んで言うマルコに、ミレーネがくすりと笑みをこぼした。
私も、自然と顔が綻ぶのがわかった。











車の中で、ミレーネにほんのちょっとだけ小言をもらった。
けれど、私もミレーネも機嫌がよかったせいか、嫌な雰囲気になることはなかった。

無茶苦茶しないでくださいね、と笑う言葉に気を付けます、と返して笑い合う。そんなゆったりした気持ちでいた。
「そういえばあの巻き毛の子、なんて言うんですか?」
「?マルコよ。どうして?」
「いいえ。なんでもありません」

落ち着いた空気を感じながら、彼女と他愛のない会話をするのが堪らなく心地いい。





ただエドガーのことだけが、心の奥底でわだかまっていた。

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