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カゲロウデイズ(南倉南)
初音ミクのカゲロウデイズという曲のパロディ
自分なりの解釈を踏まえて話を書いているので、原曲のイメージを損ないたくない方はご覧を避けて下さい
グロテスクな表現あり
南倉南
大体倉間視点
















8月15日、夏休みの真っ只中。
ジージーとやけに煩い蝉の声で目が覚めた。
普段よりも2時間程遅く目が覚めた俺は汗で湿ったタンクトップを脱ぎ捨て、寝すぎたせいかくらくらする頭を押さえた。
机の上に置いてある夏休みの課題、所謂宿題と言うやつも既に終わってしまっている。
特にやることもすることもない俺はむわっと熱気のこもった部屋の中に居るのも嫌で、気晴らしにと外へ出掛けた。

目的地も決めず、病気になりそうなほど眩しい日差しの中歩みを進めていると、よくサッカーの練習をする公園にたどり着いた。
そこには既に先客がいたようで、その人は一人サッカーボールをつまらなそうに蹴っていた。


「南沢先輩。」


名前を呼ぶと、先輩は少し遅れて振り返る。
何してるんですか、と問い掛けると見れば分かるだろって返された。


「南沢先輩が自主練なんて、珍しいですね。」


普段俺は先輩が自ら練習しているところなんて見たことがなかったから、ついそう溢してしまった。
今思えば凄く失礼な発言だったと思う。
ただ俺が知らなかっただけで、南沢先輩も陰で努力していたのかもしれないし。


「それにしても今日、すっげー暑くないですか。」


ちらりと公園の時計を見ると、午後12時半を指し示している。


「何、お前もしかして暑いの苦手?」

「苦手っつーか、好きではないっすね。」


ぱたぱたと右手で顔を扇ぎながら言えば、だらしねぇなって先輩が笑った。


「でもまぁ、俺も夏は嫌いかな。」


サッカーボールをリフティングしながら、器用にポケットへ手を突っ込み取り出した香水を自分に振りかけて南沢先輩はふてぶてしく呟いた。
あぁ、分かりますよ。
南沢先輩の場合、汗でいい男が台無しですもんね。
香水を指差し、からかうようにそう言うと、先輩の動きが一瞬止まってぽとりとボールが地面に落ちた。
えっ、まさかの図星かよ。
相変わらずのナルシストっぷりに俺は顔をひきつらせた。
南沢先輩はというと、こちらをあの鋭い瞳で睨み付けている。
おぉ怖い怖い。
俺は慌てて目を反らす。
その視線の先に、さっき先輩が落としたボールがコロコロ道路の方へと転がっていくのが見えた。
南沢先輩は軽く舌打ちをして、面倒くさそうにボールを追いかけ道路へと飛び出した。


青信号から、赤信号に変わった道路へ。




それは本当に一瞬だった。
バッと目の前を横切ったトラックが南沢先輩にぶち当たる。
先輩の身体は普通じゃあり得ない角度に曲がって、トラックの進行方向へとふっ飛んだ。
それを再び轢ねたトラックは、南沢先輩を車輪に轢きずったままけたたましいブレーキ音を響かせ鳴き叫ぶ。
ぷしゃあって唖然としている俺の目の前一杯に、風に舞った南沢先輩の血飛沫が飛び散る。
太陽の光を反射して、キラキラと光る綺麗で鮮やかな赤だった。
そして鼻を掠めたあの独特な鉄の臭いと、南沢先輩の香水の香りが混じりあってむせ返った。


「嘘、だろ。」


必死に絞り出した言葉は、今目の前で起きた現実を否定するものだった。
俺は壊れたレコード見たいに嘘だ嘘だって繰り返し呟く。
そう、嘘だ、こんなの嘘に決まってる。
しかしそうは言っても眼前に広がる血の海と、臭いと、南沢先輩の無惨な姿が目に焼き付いて離れない。
見ていられなくて、たまらず俺は空を見上げた。
雲ひとつない、水色の空を。


“嘘なんかじゃねぇよ”


現実逃避、と空を見上げていた俺に止めを刺すかのように、頭ん中で声が響いた。
それも直ぐにジージーと耳につく煩い蝉の鳴き声が掻き消す。
今のは幻聴?
空から視線を外せば、ゆらゆら歪む陽炎の間にぐちゃぐちゃになった南沢先輩が見えたような気がして、ぐらり、視界が眩んだ。




       ◇



8月14日、夏休みの真っ只中。
カチコチと普段だったら気にもならない時計の音で目が覚めた。
…今は何時?
時計を見るとちょうど午前12時を過ぎた所だった。
俺は嫌な汗で湿ったタンクトップを脱ぎ捨てて、寝すぎたせいかくらくらする頭を押さえた。
にしても嫌な夢だ。
はっきりとは覚えていないけれど、兎に角気持ちの悪い変な夢だった。
悪夢、といっても過言ではないだろう。
それから俺は何をする訳でもなくただじっと部屋のベッドに寝転んでいた。
このまま二度寝をしてしまおうかとも思ったが、何処か聞き覚えのある煩い蝉の声で寝付けやしない。
ったく、真夜中なのに何でこんな煩く鳴いてんだよ。
人の気も知らないで暢気にジージー鳴く蝉に、柄にもなく苛立った。
だからと言っていちいち気にかけるのも馬鹿らしい、と意識を蝉から遠ざけて目を閉じる。
すると何故か南沢先輩の顔が浮かんだ。
そういえばあの人と俺、昨日会わなかったっけ。
そうだ、確か8月15日の正午。
あの公園で会って、そして…。


トラックに、轢ねられた?


俺はがばっとベッドから飛び起きた。
カレンダーと時計を見れば、8月15日の午後12時半。
いつの間にか朝になっていたようで、俺は大慌てで服を着替え家を飛び出した。
そして向かった先はあの公園。
やはり、というか南沢先輩はそこにいた。


「っ南沢先輩!!」


俺は車道に転がって行ったボールを追いかける先輩を力の限呼び止めた。
びくりと肩を揺らし、立ち止まった南沢先輩の目の前でサッカーボールがぱんっと割れる音と夢で見たトラックが通り過ぎるのが見えた。
正に間一髪。
今日俺が見たあの夢は正夢だったんだ。
俺は割れたサッカーボールを見下ろす南沢先輩の側へ駆け寄った。


「危ない所でしたね。」


安堵の表情を浮かべた俺は南沢先輩の顔を覗き込んだ。
しかし、南沢先輩は無表情だった。


「危ない?何が。」

「え…、だって、トラックが…。」


どこか遠くを見ながら呟いた南沢先輩に、俺は動揺を隠せなかった。
そして訪れた沈黙。
辺りに響くのはあの煩い蝉の声だけ。
…なにこれ、凄く気まずい。
もしかして俺、何か可笑しなこと言った?
頭を捻って考えるが、まったくそんなことはないと思う。
寧ろ可笑しいのは南沢先輩の方だ。
ちらっと先輩の様子をうかがうと、顎に手を当てて何かを考えている。
それからやっと、重い口を開いた。


「…あぁ、そうだ。……そうだったな。」


後もう少しで俺もこのサッカーボールみたいになってたんだよな。
無表情のままぽつぽつと話す南沢先輩に俺は混乱した。
だって可笑しいだろ。
下手すればさっき死んでいた人間が、こんなにも冷静で驚いた素振りひとつ見せやしない。
これじゃあまるで、予め自分が死ぬって分かってたみたいだ。


「…どうした?」


俯き、黙ってしまった俺を心配するような先輩の声にはっとして頭を降った。


「いや、何でもないです…。」


ぎこちない笑顔を浮かべてながら言った俺に、南沢先輩は何か言いたそうに眉をしかめた。


「あの、もう今日は帰りませんか?」


何故かこの空間にいるのが息苦しくて嫌で、何かを言いかけた南沢先輩の言葉を遮るように切り出した。
すると先輩は目を見開いて驚いた。


「はぁ?何で。」

「何でって、今日は暑いから…。」

「何、お前もしかして暑いの苦手?」

「苦手っつーか、好きではないです。」


あれ、この会話。
夢でも交わしたような気がする。
ぶわっと噴き出した嫌な汗を慌てて拭うと、だらしねぇなって先輩が笑った。


「でもまぁ、俺も夏は嫌いかな。」


空を見上げて言う南沢先輩は、立ちこめる陽炎とさんさん輝く太陽を睨んでいるうように見えた。

「…なぁ、お前この後暇?」


ちょっと間を空けて振り向いた南沢先輩と、今日初めてまともに目があった。
一瞬ドキリとしたが、それはいつもの南沢先輩の瞳で少しほっとした。


「…まぁ、特に予定はないですけど。」


ならさ、アイスでも食いに行こうぜ。
先輩はそう俺を手招きして歩き出した。
まだ了承もしていないのにさっさと行ってしまう図々しい先輩に、あぁ、やっぱりいつもの南沢先輩だと再度安心する。


「あ、でも俺金持ってないっすよ!」

「いいよ、今日は特別に奢ってやる。」

「え、マジっすか!あのケチな南沢先輩が!?」

「…別に食いたくねぇならいいけど?」

「いえ、お言葉に甘えさせて頂きますっ。」


媚びるようにそう言うと、本当お前って調子のいいやつだなって額を小突かれた。
いってーって大げさに叫んでしゃがみ込んだ俺を見下ろして、先輩は笑う。
それに釣られて俺も笑った。
そんなバカなことを二人でやりながら、俺と南沢先輩は高層ビルの建ち並ぶ大通りへと抜けた。
しかし可笑しい、いつもは騒がしい大通りが今は不思議なことにしんっと静まり返っている。
どうしたのだろうと辺りを見回すと、周りの人は皆口をぽかんと開けて上を見上げていた。
俺は頭にハテナマークを浮かべながら、ゆっくりと視線を空へと向ける。
その時一瞬視界に映った工事中の看板、…嫌な予感がする。

意を決し空を見上げると、頭上には長細い大きな黒い影が迫っていた。

あ、これはヤバい。
頭ではそう理解しているのに、身体が言うことを聞かない。
足がすくんで動かないんだ。
勿論そんなことなどお構い無し、と言ったように時間は止まることなく過ぎて行く。
空から落下してくる黒い影も、更にスピードを増して迫ってくる。
それでも身体はぴくりとも動かなかった。
もしかして、このまま死ぬのかな、俺。
なんて縁起でもない事を考えながら突っ立っていると突然、俺の身体は誰かに押されコンクリートへと叩きつけられた。
それとほぼ同時だったと思う。
どすんと鼓膜が破けそうな程大きな音を響かせて黒い影、鉄柱が“何か”を貫いて地面に突き刺さったのは。
その“何か”を理解するのに、俺には時間が掛かった。
いや、ただ単に今目の前で起きた事を認めたくなかっただけだ。
しかし、俺が認めようが認めまいが現実は変わらない。
南沢先輩に深々と突き刺さった鉄柱が消えてなくなる、なんてことは絶対にありえないのだから。
俺はただぼうっと先輩に刺さった鉄柱の隙間から、噴水みたいに噴き出す真っ赤な血飛沫を見ていた。
最早俺の頭じゃ、この状況は上手く処理しきれなかったんだ。
それから何秒か経って、周りからつんざくような悲鳴が上がった。
その中で、ちりんとこの場に似つかわしくない綺麗な風鈴の音も聞こえた。


「夢だ、こんなの。」


必死に絞り出した言葉は、やはり今目の前で起きた現実を否定するものだった。
目をきつく瞑り夢だ夢だって繰り返し呟いて、俺は何とか理性を保とうとした。
しかしひとたび目を開けると、赤に染まった鉄柱に突き刺さる南沢先輩の無残な姿が飛び込んで来て、…思わず目を反らした。


“夢なんかじゃねぇよ”


まただ。
また今回も俺に止めを刺すようにあの幻聴が聞こえた。
煩い、何なんだよこれはっ!
もう訳が分からなくなって俺は頭をコンクリートに打ち付けた。
狂ったように何度も何度もそれを繰り返す。
いつしか俺の額は胸に鉄柱を生やした南沢先輩と同じ色に染まって、くらりと視界が眩んだ。
そして最後、陽炎の隙間から垣間見た南沢先輩が俺を見て笑っているような気がした。




       ◇




8月14日、夏休みの真っ只中。
俺はベッドの上で目を覚ました。
別に不思議なことではない。
こんなもの、よくある話なんだと思う。
何度も夢の中であの人が死んで、死んで、死ぬ。
それを永遠と繰り返す。
所謂無限ループだ。
要するに、俺たちは設定された物語の中で踊らされているちっぽけなキャラクターに過ぎないと言う事。
それなら、どうしたらこのループを終わらせられる?
どうしたら南沢先輩を救える?


物語の結末が、必ずあの人の“死”で終わるなら。
答えは簡単。




       ◇




「でもまぁ、俺も夏は嫌いかな。」


俺は何も答えなかった。
ただあの時が来るのをじっと待つ。
暫くして、サッカーボールをリフティングしていた南沢先輩がボールを落とした。
ボールは道路の方へと転がっていく。
軽く舌打ちをして、南沢先輩が面倒くさそうにボールを追いかけた。
それを阻止するために、すかさず先輩を突き飛ばす。

突然のことに、訳が分からないと言ったような南沢先輩を目尻に、俺は青信号から赤信号に変わった道路へと飛び込んだ。
そう、これで、これでいいんだ。
そうですよね、南沢先輩。




バッと南沢先輩の目の前を横切ったトラックが俺にぶち当たる。
俺の身体はみしみしと軋み、普通じゃあり得ない角度に曲がってトラックの進行方向へとふっ飛んだ。
それを再び轢ねたトラックは、俺を車輪に轢きずったままけたたましいブレーキ音を響かせ鳴き叫ぶ。
痛みはあまりなかった。
と言うのも、最初にトラックにぶち当たった衝撃で痛覚がほとんど麻痺してしまったからだ。
そしてぷしゃあって俺の血飛沫が舞い散る中、一瞬だけ南沢先輩と目が合った。
唖然とする先輩に向かって俺は微笑む。
はたして、上手く笑えていただろうか。




「…嘘、だろ。」


南沢先輩が小さく必死に絞り出した言葉は、今目の前で起きた現実を否定するものだった。
しかしもうあの幻聴は聞こえない。
ははっ、ざまあみろ。
これでやっと長い夏休みが終わる。
物語はこれで完結する、と俺は口元に笑みを浮かべた。
そしてくらりと眩む意識の中で、ゆらゆら歪む陽炎の隙間にいる誰かが文句ありげにこちらを見ているような気がしたけど、夏の水色と煩い蝉の鳴き声にそれら全ては掻き消された。

こうして長い、実によくある夏の日の出来事は、予想外の人物の死によって終わったのだった。




       ◇




8月14日、夏休みの真っ只中。
目を覚ましたのはベッドの上。


「…また、駄目だったか。」


南沢はひとりサッカーボールを抱きかかえていた。


「…この物語は、お前が俺の死を受け入れない限り永遠に繰り返される。」


この可笑しな世界から抜け出すには、俺を諦めるしかないんだ。
南沢はベッドから起き上がり、ジージーと煩い蝉の声が響く窓の外を見る。




「だから早く俺を殺せよ、倉間。」












END…?




後書き
カゲロウデイズが好きすぎてやっちゃいました;
とっても素晴らしい曲なのでまだ聞いたことがないって方は是非聞いてみて下さい!

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