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短編
抱きしめて(砂木緑)
砂木緑
砂木沼視点














「俺のしてほしいこと、分かる?」

キョトンとした表情でリュウジを見れば、彼はあぁ、やっぱり分かってない。とため息をついた。
今まで静かに本を読んでいたリュウジに、突然そう言われた私はただ首を傾げることしか出来なかった。
リュウジはというと、そんな私の態度が気に入らなかったのか、頬を膨らましながら再び本へと意識を向けた。

「リュウジ、してほしいことってなんだ?」

彼は黙りを決め込んでるようで、私の言葉がまるで聞こえていないかのように本を読み進めていく。
私はそんなにカンの鋭いタイプではないので、リュウジが何を伝えたいのかなどさっぱり分からない。
リュウジもそれは知っているはずだ。
だとすると、彼はわざとそう言って私を困らそうとしているのかもしれない。
もしくは、構ってほしいのかもしれない。
ならばと私はリュウジの背後に移動して彼をそっと抱き締めた。
突然のことに驚いたのか、リュウジは持っていた本を落とした。

「な、ななな何してるの!?」


滅多にこんなことしない私にリュウジは少々、否かなり戸惑っているようだ。
こんなに動揺したリュウジは久々…というか初めてかもしれない。

「…よく分かったね。俺のしてほしいこと。」

は?
という私の呟きは、心の中でなんとか留まった。
そんな私の心情なと知らないリュウジは言葉を続ける。

「だって砂木沼、この頃俺のこと全然抱きしめてくれないんだもん。」

昔はよく抱きしめてくれたのになー、なんて恥ずかしそうに言うリュウジをとても可愛らしいと思った。
そして今まで寂しい思いをさせてきた自分に後悔。

「なら、今日から毎日抱きしめてやる。」

そう私が言うと、リュウジはとても嬉しそうに笑った。
それから彼は体を私の方へと向けた。
私の瞳に耳まで真っ赤に染めたリュウジの顔が映る。

「約束だよ?」

私の肩に手を回しながらリュウジが言う。

「ああ、約束だ。」

そう言って腕の中に納まっている小さな体を力一杯抱きしめた。




余談だか私は案外カンの鋭いタイプなのかもしれない。






END

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あきゅろす。
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