★君の結婚式(相夢)※悲恋モノです

「お帰りなさい」

実家の母の声はいつ聞いても安心する。

「ただいま」

不安と後悔の気持ちでいっぱいな俺を少しほっとさせてくれる。

「明日ですって?」

「うん、そうだよ」

明日はやよいの結婚式。

「楽しみね」

「……そうだね」

でも、相手は俺じゃないんだ。



やよいとは、小さい頃からの付き合いで、所謂幼なじみ。
いつも一緒にいて、気がついたら意識してた。
友達と恋人の中間みたいな時期が5年くらい続いて、ようやく告白したら

『遅くない?』

って、笑って、その笑顔にすごくドキドキしたことを今でも覚えてる。
その後もずっとずっと、一緒にいるって信じてた。



「ちょっと、この辺ウロウロしてくるよ」

「気をつけてね」

雲一つない青空。
眩しくて目を細める。
昔やよいとよく見た景色だ。
一歩進むごとに、一つずつ思い出が蘇る。
楽しかったことも、辛かったことも。
隣に居てくれた、その影と一緒に。

「……此処、変わってないな……」

思い出に任せて歩いた先は、よく学校の帰りに寄っていた公園。
景色が良いから、暗くなればカップルが増えて、気まずかった。
雰囲気に呑み込まれて、キスをしたこともあった。
何処よりも思い出の多い場所だ。
あの日も俺達は此処にいた。

『一緒に、東京へ行かない?』

俺達が少しずつ人気になって、一人暮らしを考えていたときだった。

『え?』

『一緒に暮らそう、やよい。結婚してほしい』

俺は、嬉しい返事を期待してた。
でも、やよいは俯いて、呟いた。

『笑えないよ、そんな冗談』

表情は、見えない。

『いきなり言われても……困るよ……』

『なんで!』

『なんでって……だって、雅紀は、芸能人じゃん』

『そんなの、今だってそうじゃん!』

『そうだけど、でも、違うの!』

やっと顔をあげたやよいの目は真っ赤だった。

『これから、どんどん人気になるよ?一緒に暮らしても、すれ違いばっかりで!
 独りのときはどうしたらいいの?知り合いなんていないのに……』

まばたきすれば、こぼれそうな涙。

『それに、アイドルなのに、夢を売る仕事なのに、結婚しちゃだめだよ……』

やよいの手は、震えていた。

『やよい……』

『雅紀は、もっと凄くなるよ。私、ずっと応援してるから』

『……わかった、ありがとう』

この後すぐ、俺は逃げるように引越をした。

「……帰るか」

すっかり空は赤くなり、東の空に月が出ている。
俺は思い出に背を向けるように、歩き始めた。



この日は、なかなか寝付けなかった。
もう一度会いたいという思いと、会っても何も変わらない現実。
どうして俺じゃないんだろう。
あの時、あんなこと言わなきゃ、もっとずっと側に居られたのかな?



結局外が明るくなってから眠って、起きたらもう昼。
適当にご飯を食べて、結婚式の会場へ向かった。
とは言っても、同級生の経営するレストランでの人前式。
着いたら、懐かしい顔が揃っていた。

「お、雅紀じゃん!」

「おー、久しぶりー!」

久々の友人に笑いかける。

「お前来ないと思ってたよ」

「いやあ、たまたま休みでさ!」

「そっか、やよい嬉しいだろうな。でも、まさかやよいが結婚とはなー」

「だよねー」

「俺、あいつが結婚するなら、相手はお前だってずっと思ってたよ」

「……ははっ、まあね、付き合い長かったからね」

精一杯の苦笑い。
俺が一番、そう思ってたよ。
結婚の相手が知り合いだからこそ、辛い。
彼ならやよいを幸せに出来る?
やよいは本当に彼と結婚したかった?
でも、もう、遅い。
時間が迫る。

「お集まりの皆さん!」

始まった。
司会役の友人の声。

「新郎、新婦の入場です!」

がちゃりとドアが開いて、現れる二人。
すっきりしたタキシードと、マーメイド型のウェディングドレス。
幸せそうな笑顔。

「おめでとうございまーす!」

「やよいちゃん、綺麗だよー」

真っ白な衣装のやよいは、とても綺麗に見えた。

「では早速!誓いの言葉を」

「お前司会だけじゃなくて神父もやんのかよー!」

「うっせー!頼まれたんだよ!」

皆、楽しそうに笑ってる。
やよいも。
照れたような誓いの言葉。
上手く笑えてなかったのは、俺だけだった。

「さて、では今日はもう飲んで食って盛り上がりましょう!カンパーイ!」

やよいはお色直しで一旦退室。
雰囲気はもう、結婚式というよりは同窓会だ。

「お、相葉くんじゃーん!飲んでる?」

「飲んでる飲んでる!」

声をかけてきたのは、やよいの友達。
いつも俺達の仲を気にかけてくれてた。

「相葉くん、来ないと思ってたよ」

「それさっき違うやつからも言われた」

「まじ?でもだってさー、相葉くん、やよいと付き合ってたじゃん?」

「まあ、ね」

「来づらいかなあと思ってさ、でもまあ、来てくれて良かったよ」

「ああ、そう」

「うん。あ、そういえばさ、相葉くんと別れた後、やよい超泣いてたんだよー」

「え?」

「突然電話かかってきてさー、別れたって。すっごいびっくりしたんだからね?」

思い出す。
真っ赤な瞳、震える手。

「やよいね、もう吹っ切れたって言ってたけどさ、
 その後もずーっと相葉くんのこと、好きだったよ。もしかしたら、今だって……」

「新婦のお色直しが完了しました!」

ピンク色のドレスに着替えたやよいがやってきた。
手には小さなブーケ。

「ではここで、突然ではありますが、ブーケトスを行いたいと思います!」

女性が、やよいの周りに集まる。
俺も呼ばれて、近づいた。
後ろを向くやよい。
そーれ、と掛け声に合わせて、ブーケを投げる。
くるくる回るそれは、多くの女性達の手を通り過ぎ、俺の胸へ飛び込んできた。
皆がこちらを見る。
事情を知っている友人達は気まずそうに苦笑いをした。
やよいが振り返る。

「あ、ブーケ、雅紀だ!」

何度も見た笑顔。
もう向けられることはないと思った笑顔。
胸が痛い。
痛い。
俺達、もう戻れないんだね。

「……悪いね、男がもらっちゃって」

ブーケもらったって、結婚しないのに。
出来ないのに。
やよいがするなって、言ったのに。
こんなのもらったって、嬉しくないよ。



ぐだぐだに終わった結婚式。
明日は仕事だからと、友人からの二次会の誘いを断った。
右手には不似合いな可愛いブーケ。


(これ、いつかは枯れるんだよな……。どんなに頑張っても……)

まるで惨めな自分のようで、そっと抱き締めた。



好きです。
やよいが好きでした。
この想いは、このブーケの花達のように、やがて、枯れるでしょう。



end


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あきゅろす。
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