じっくりと、じっくりと
「いっ…………たぁ…」
じわり と右手の指先に赤い血が滲む。どうやらプリントで切ってしまったようだ。
絆創膏…絆創膏…。………ない。
「…うー…地味に痛い…」
口に含んでみるも、じくじくと熱を持つ指先の痛みは引かない。溜め息を吐いて席を立ち仕方なく保健室に向かう。
「はぁ…やだなあ…」
なにが嫌って。あの喰鮫とかいう気持ち悪い保健医がいやだ。一部の女子生徒にはかっこいいだとか美人だとか言われてはやし立てられてるけど私は嫌い。あの爬虫類のような瞳でいやらしく見つめられると、背筋がぞくりと栗毛立つ。会うたびボディタッチが多いのも不快だし、いちいち耳元で囁くのもいらつく。前に他の生徒にもこんなことしてるのかと問いただしたら、先生は楽しそうに笑ってた。その時私は酷く怒りを感じたのを覚えている。ああもう。最悪。どうせ指を切ったなんて言ったら舐めさせてくださいとかほざくに決まってる。
「舐めさせてください」
「ほら言った。」
まったくこいつという奴は。本当に教師なの?と眉を寄せて不快感をあらわにしていたら、先生はくつくつと笑って 冗談ですよ、と目を細めた。さらりと色素の薄い髪が揺れて、先生の白衣に垂れる。第三ボタンまで開けたカッターシャツに、キラリと光るネックレスが目に入った。
「先生……それ…」
「?ああこれですか?貰ったんです」
「鮫?」
「そうですよ。私にぴったりでしょう」
先生は私の指先に消毒液を湿らせたコットンを押し当てながら、ネックレスのチャームに触れた。シルバーでできた鮫の瞳は水色のスワロフスキーで造られている。すごく素敵だと思って、ぼんやりとそれを見つめた。なぜだろう。とても惹かれる。
「(………彼女から、とかかな)」
「………ふふ」
「……なんですか」
沈んでいた嫌悪感が再び浮かんでくる。私は緩んでいた表情を引き締めて先生を見やった。先生は素早く私の指先に絆創膏を貼ると、自分の首の裏側に手を伸ばす。
「そんなに欲しいなら、あげますよ」
チャリ、と小さな音を立ててシルバーの鮫は私のスカートの上に乗った。驚いて先生を見やれば先生は口角を上げる。
「え、は?なに」
「返品不可です」
「そんな……困る…」
「おや?本当に?ああ…着けてあげましょうか」
「い、いいです!自分で着けられます!」
慌ててネックレスを着けると、先生は似合いますねと頷いた。
「ありがとう…ございます………」
「喜んでいただけたようで良かった」
なに。なんなの。もう。落ち着け私の心臓。嫌い嫌い、嫌いだこんな変態教師。頬が熱い。こんな奴に借りなんてつくりたくない。好きじゃない。好きじゃない好きじゃない…好きじゃない…
「先生の要求は何ですか」
「?」
「お礼、します」
なんて可愛くない言い方
先生はにやにやと薄く笑みを浮かべて、必死に視線を逸らす私を見つめている。そして私の言葉にしばらく考えるような仕草をしたあと、私の肩に手を乗せた。びくりと身体が跳ねる。
「そうですね……ならひとつ」
「………」
ぐっと引き寄せられて、先生の顔と私の顔が目と鼻の先の距離まで近付いた。思わず身を引けば腰に力強く回された腕に阻まれる。
「せ、んせ…なにして…」
「もっと自分に素直になって下さい。それが私の貴女に望むことですよ」
そっと先生の指先が私の顎のラインをなぞる。そしてそのままちゅっと音を立てて私に口付けた。
「………!!!」
「可愛いですね…」
「はっ…?」
突然のことにぽかんと呆ける。そして、ことを理解した途端に思考が爆発した。煮えたぎるように頬が熱を持つ。どくどくと波打つ心臓。息が苦しい。
「な、ななな何するんですか先生!!」
「ここまでならセーフですよね」
「いやいや全然アウトですよ!」
「そうですか」
「最悪…!変態教師!ロリコン!」
「まったく…素直じゃないですね…」
「…も…もうやだ…」
がくりと体から力が抜ける。先生はそんな脱力した私の頭をぽんぽんと撫でた。そんな優しい感触に思わずじわりと涙が滲む。
「………先生、先生は私以外の子にも、キス…するの?」
前と同じような質問。先生の手が止まる。
私は、真剣に答えてほしかった。自分でももう気付いてた。でも認めたくなかった。
先生が本気な訳がない。他の女の子にも同じようなことをしてるんだから私だけが特別だなんて思い上がっちゃいけない。
でも、そう考えれば考えるほど胸が軋んだ。つらかった。悲しかった。
だから私は自分の気持ちを封じ込めて、先生との接触を極端に避けた。分かりやすい程に先生を否定した。
そうしなければ封じ込めた私の本当の気持ちが、溢れ出てしまいそうだったから。
なのに、先生はまた私の心をかき乱す。
「…ふふ……そうか。そういうことですね。ああやっと謎が解けました」
「……?」
顔を上げると、先生はまたにやりと笑った。
「そうですねぇ…こう言えばいいのでしょうか。『君は特別です』」
「え……」
「貴女以外には決してこんなことしませんよ。捕まりますからね」
「…ほ…本当…?…ていうか私以外だと捕まるってどういう意味ですか。私でも捕まりますよ」
「貴女のことを生徒だなんて思ったことはありません」
「え……」
「一人の女性として…………やっと手に入れた」
先生の指先が私の首元を撫でて、ネックレスに触れた。
「な、なに……何言ってるのかわかんないよ…」
「貴女は私のことが嫌いですか?」
「!」
「なまえ、」
先生の瞳がぎらりと輝いて、私を射抜く。
「せんせ……」
「はい」
「っ……あのね」
「はい」
「……ほんとは…嫌いなんかじゃないよ」
「はい」
「………………すき」
「はい」
「…好きです先生っ……大好き…っ…」
「…知っていますよ」
そう言うと、もう一度ゆっくり先生の唇が私の唇に重なって、何度かそれを繰り返された。そして、最後にぺろりと上唇を舐められる。ぞくりと背筋に悪寒と違う今まで味わったことのない感覚が走った。
「ふふ。やっと言ってくれましたね……」
「ーっ………」
急に恥ずかしくなって、ぽすん と先生の胸元に頭を預けながら先生の白衣を握り締めた。先生は私を優しく抱き締める。
「私も貴女が好きですよ」
両想いですねえ、なんてにやにや笑う先生は確信犯だった。
じっくり、
じっくりと
(明日からは気兼ねなく貴女を愛していいのですね…。楽しみですね…楽しみですね楽しみですね…)(せ、先生視線がいやらしいんですけど…)
:) 愛音さまリクエスト学パロ喰鮫\(^P^)/書いててとっても楽しかったです^^メールで話していたのもあって書きやすかったですし*
これからもどうぞtiamo!をよろしくお願いします★しぷ
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!
|