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初恋(大人向けBL)完結
3
「悪い……。やっぱ、抑えらんねぇ」
「優……っ?」
 あの夜と違うことは、優の気持ちを考える引き出しなんて、何も与えられていなかったこと。
―ミドリはなあ、ずっとお前に片思いし続けてたんだぜ?−
 この状況下で、あの言葉が頭の中を駆け巡る。
―お前らを見てる優の気持ちも分かってやってくれよー
 絶対ちがうと否定してきたマルオの言葉が、こんな時だけ息を吹き返して、俺から抵抗を奪っていくんだ。
「祥汰……」
 聞いた事もない甘い声を出して、優は俺にキスをはじめる。その熱に、浮かされてしまいそうだった。
 やがて、自分の体から抵抗が消えた。まるでいう事を聞かなくて、情けなくも目は閉じられ、かつての幼馴染から与えられる甘い余韻を、素直に受け入れようとしている。
 それを察してか、相手のキスは濃厚さをまし、そっと舌が差し入れられる。
「ふ……ぁっ」
 萩野に開発されてきた体は、すぐに反応し始めた。
 滑らかな舌先が歯型を辿り始めると、我慢できなくなって喘ぎ声が漏れ出した。
 覆いかぶさるシャツごしに、汗まじりの優の匂いがした。やがて口内に潜めていた自分の舌にねっとりと擦り合わせられると、どうしようもなく下半身が反応し、興奮を連れてくる。
「ゆう……っ」
 いつのまにか自分もうわごとように優の名前を呼び、首元に腕を絡ませてアイツの体を引き寄せていた。
 両脚を大きく開かれ、間に男の体が入ってくる。シャツの上から熱をもった手が這い回り、胸にある蕾に触れたとたん、やさしく摘み上げた。
「ああ……んっ」
 体の中を、ゾクゾクとした快感がかけめぐった。
「凄え、敏感……」
 動きが徐々にに淫猥に変わる。親指の腹で、ゆっくりと弧を描くように。それも、わざと焦らすように、布がこすれる程度の微(わず)かな余韻だけを与えはじめた。味わったことのない物足りなさが体の中に蓄積していっては、自分の理性そのものを狂わせようと襲いかかる。
 優が、俺にこんなことを。
 優が―――――。

 突然だった。
 無機質な機械音が、服と床の上で振動を始める。後ろのポケットに入れておいた携帯に着信が入ったのだ。
バイブ音が、これまでにないほどの電磁信号で腰から神経に伝わり、麻痺(まひ)しかけた脳内を一気に覚醒させた。
「……ぅ、あっ!?」
 まるで催眠から解けたようだった。状況を把握する前に体は飛び起き、優の体を突き飛ばす。
「ご、めん―――」
 どうしてそんな言葉が突いてでたのかも分からない。
 ただ、気が付いたら上着もコートも何もかも引っ掴んだまま、店の外へ飛び出していた。

 ほんの数分の過ち。
その間に優の見せた思わぬ表情と、咄嗟に突き飛ばしたときの驚いた顔が、頭のなかで洗濯機のようにぐちゃぐちゃに混ざっている。
「祥汰さんっ、大丈夫ですか? さっきの突風で店内の照明が消えてるのを見て、心配になって……」
 裏口を出た途端、座り込んでた萩野が真っ青な顔をして近付いて来る。
「……ふ…っ」
「祥汰さん?」
 その顔を見た途端、張り詰めた感情を抑えきれなくなり、胸のなかに飛び込んだ。
 萩野のからだは、とても冷たい。あの夜と同じくらいに。
「……っく……」
 これまで自分が見て来たのは、女遊びに明け暮れていた優。興味本位で俺にキスをして、好きだと言った告白を皆の前で笑いものにされた。
 なのに、あいつが好きだったのは自分だと言われ、6年ごしの再会の末、キスをされ、うわごとのように、好きだと―――――。
「ウッ……ウウ……ッ……っ」
 あれから数年。性懲りもなく優に振り回されている自分は、昔と何も変わってない。
結局、忘れられないんだ。
 怒り、 哀しみ、 失意、 幸福感、 恋心、 僅かな望み、 そして絶望……。
 過去と一緒に捨てたはずのさまざまな感情が、自分の胸に戻っていることが、怖くて仕方ない。
心が……はちきれそうなほど苦しい。

その夜俺は、萩野にすがりついて、ただひたすらに泣きじゃくった。


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