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初愛ーはつあいー
6


「め、メルアドも教えてって。それで」

「は?」


正直に言えば言うほど、萩野さんの顔がひきつっていく。どうしよう、この場の鎮静方法がわからない。

どうしよう……。


「俺……思ったんです。コイツと俺って似てるって。
だって俺、萩野さんにフラれたはずなのに、いまでも諦められなくて……」

ああ、何でいま、こんな事を言ってるんだろう。

俺っていつもそう、なにかとタイミングが悪いんだ。

追い詰められると頭のなかがめちゃくちゃになって、考えていることがだだ漏れてしまう。


「今でも萩野さんのことが好きで。大好きで……。好きすぎて苦しくて」


頭では分かっていても、冷静さを失った俺の口は止まることを知らない。

思ったことがそのまま、口をついて出てきてしまう。


「………」


どうしよう。萩野さんの顔が、どんどん険しくなっていく。最悪だ……ものすごく困った顔をしてる。

こんな表情、フラれた時でさえ見た事がないのに。


「だから、男とか関係なく、交際のことを考えて欲しいって言われたとき、すぐに断れなかった。
俺も、その気持ちが分かるから……」


うつむいて話していたから気付かなかった。

ベットの上で追い詰められ、両脚をかかえて蹲(うずくま)っていた俺のすぐ目の前まで、萩野さんが迫ってきているという事に。

突然ベットが軋んだ音をだしてゆっくり沈んだかと思えば、目の前に一回り大きな影ができる。

とっさに顔をあげる。物凄く怖い顔をした萩野さんが、俺の両肩をもってベットの上に押し倒すところだった。


「や……っ!?」


押し倒された事もした事もない俺は、思いもよらなかったまさかの事態に、軽いパニック状態になっていた。

手足をバタつかせて必死に抵抗しようとするが、腹のうえにのしかかってきた萩野さんの体重が身体の自由をうばい、両腕は片手一本で簡単にねじあげられてしまう。

視界はまるで映像の流れるように、目がまわるほどの速さでベットから天井へと切りかわった。

その真っ白い壁紙でさえも、次の瞬間には眉を吊りあげた萩野さんの顔で占領されていた。

優しさの象徴だった穏やかな二重瞼がいまは引きつったように尖り、まるで俺を攻めているみたいに睨みつけている。


「蒼太は何にも分かってない。男と恋愛するって事がどういう事なのか、全然分かってないよね」

「何いって……っ」


俺の体重の倍近くはあるだろうか。

まるで鉛のように、萩野さんの身体がズシリと沈んでくる。

胸や腹まで圧迫されて上手く呼吸ができない。



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