REN†ALーれんたるー(完結) 1 *** 歩道橋の上から夕焼けに沈みかけた街並みを見ると、まるで真っ赤な海の中に溺れているようだ。 まだ夕方だったんだ、と漠然と思う。 梅雨が近いのか、辺りの空気は湿気じみていて、有紗の着ている制服からつないだ手の指先まで、どこか汗ばんだ熱気がこもる。 煌々と照りつけるネオンが、往復4車線路を白く照らして小さくなる。 真上に横切る高速道路からは、アスファルトとタイヤの擦れる音が台風のように耳を鳴らして、なんだか騒々しい。 家とは真逆のこの道は、もしかしたら歩くこと自体初めてかもしれない。 セックスの余韻で重くなった体を揺らしながら、漠然とそんなことを考えた。 ――パパさん、どうしてるだろう。 人恋しさがつのる黄昏時だからか、雨宮のことが脳裏をよぎる。 今日は、家に帰らないと決めた。 それは昨晩言われた雨宮の言葉から、逃げているだけかもしれないのだけれど……。 「あーちゃん、おいで」 考え事をしていた有紗の手を引いて、上條が歩道橋の真ん中あたりで歩みを止めた。 金色の髪を撫子色(なでしこいろ)に染めて、ニコニコと笑顔で見つめられると、訳もなくドキドキする。 促されるまま、手すりから前のめりに、下の景色を見下ろした。 すぐに上條が後ろから包み込むようにして、覆いかぶさる。 「さ、くやさん、人が……っ」 すぐ後ろを歩いていた女子高生らが、突然抱き合った二人をみて、妙に甲高い声を上げて騒いでいる。 「ああ、うざいなら追っ払ってこようか?」 少しトーンダウンした声に、慌てて大丈夫と言いつつ顔を上げた。 「そう?」 「………っ」 もう、すぐそこに笑顔を含んだ美形が迫っていて。 次の言葉も出ないまま、覗き込まれる形で唇が押し付けられる。 ついさっきまで全身を愛された、あの柔らかい唇に。 黄色いひやかしの声すらも、もはや耳に入らない。 公衆の面前で堂々と降って来たキスに、頭まるごと真っ白になってしまったから。 「……っん」 唇を吸われ、重なった所から音が漏れる。 ゴツゴツとした体とは比べものにならない位、上條の唇は柔らかくて。 「……っん」 思わず口を開けると、すぐさま入り込んで来た舌が、出ずっぱりな有紗のそれを絡め取り、たっぷりの唾液とともに愛撫してまわる。 夕日が射して熱い。 糖度たっぷりの甘い熱が、湿(しめ)った肌をじんわり濡らして仕方ないのだ。 次第に、手すりに預けた体重ごと抱き寄せられる。 「………………っ」 熱い。 熱い。 腕の中が二人分の熱で、のぼせ上りそうだ。 [次へ#] |