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REN†ALーれんたるー(完結)
3



「……んっ……ふ、ん……」


意識まで奪い去られてしまいそうな、強引な熱とともに、滑らかな舌が開きかけた唇の間を割り開いて入り込んでくる。

さっきまで漂っていた煙草の香りが、ほろ苦い味覚に混じって口内に充満した。

有紗の顔を覆い隠してしまいそうな大きな手に包み込まれ、愛にも憎しみにも似た強い感情の波が、歯型を辿って有紗の舌先に絡まった。

薄目を開けて見上げても、凛々しく引き締まった目元でさえぼやけてしまうほどに、すぐ傍に上條の熱を感じる。


「ぅ……っんん……」


数えきれないたくさんの感情が、胸の中に渦巻いた。

一方的で強引なキスが、どこまでも甘く、優しい理由を。

もはやドキンドキンと高鳴ってやまない心音に胸を痛め、どうにもならなくなった身体を、コンクリート壁に委ねる。

無機質な冷たさを背中に感じる。コツンと頭を擡げると、唇を奪われたままの顔は、自然と上を向いた。

少しでも油断すると、上から圧し掛かった重みで倒れ込んでしまいそうになる。

有紗は後ろ手に腕を回し、痛いくらいに押し付けられる唇の重圧を、自ら背伸びして受け止め始めていたのだ。


「クソ……!」


突然上條の怒鳴り声とともに、有紗の身体は突き放され、弾みでもたれかった時の、コンクリートの冷徹なまでの硬質感が、火照りかけた全身を一瞬にして覚醒させた。

一方的にキスを迫っておいて、まるで抵抗を見せない有紗の反応に、上條は逆に怒りを見せたのだ。



「あーちゃん、一体何考えてんの。あの時みたいに抵抗すれば?
俺の唇噛んで、やめろって言ってみろよ」


あの日、雨宮の前であられもない姿をさせされた挙句、凌辱された有紗は、強引にキスを迫って来た上條をひっぱたいて言ったのだ。

『何があっても、あなたの事だけは好きにならない』と。


「好きでもない奴にキスされて、無抵抗に受け止めてんじゃねぇよ。……マジでなんなの」

「そんな事……僕にだってわからない」

有紗にだってわからない。

自分の事を女のように扱い、淫らな欲望で汚した憎くてたまらない男のキスに、どうして今更、こんなに惑わされているのか。

自分の心はまるで、砂糖菓子で作られた甘い刃に切り裂かれているみたいだ。

教えて欲しい。

上條朔夜に触れられるだけで、こんなにも胸が熱く、たゆたく痛むのは何故。

答えを求めて、今にも泣きそうな顔で上條を見上げた。

冷徹な無表情の奥に、怒りを貯め込んで見える凛々しい目が、ただ静かに有紗を睨み付けている。

両腕を壁に付け、未だに有紗を中に閉じ込めたまま。

微動だにしない視線は、火傷しそうなくらい熱い。


「……酷いね。今更そんな目で俺のこと見るんだ?」


有紗を責めるような鋭い眼差しと共に、壁に付いた手が、肩から首をなぞり、ヒヤリと冷たい感触をもったままの指先が、そっと頬を掠めた。

そこに、憎いのか愛しいのかさえ分からない男の顔がある。彼に挟まれた空気が熱い。

ドキドキと音を持った有紗の心音ごと、熱気球のように浮かんで聞こえてしまいそうだった。


「あれだけ拒否しといて、やることえげつないよ」


かつて体中を舐めつくされた、上條の赤みを帯びた唇が、有紗の唇の僅か数ミリ前で止まった。

上條の唇から、トロリと柔い熱が漏れ、それが有紗の唇を掠めた途端、全身にくまなく、甘くしびれた熱が駆け巡るのを感じた。


「……早く逃げなよ。俺が手の届かない所にさっさと行っちまって。もう二度と、その可愛い顔見せないで」


バイバイ。

上條の唇が、そっと有紗に重なった。




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あきゅろす。
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