REN†ALーれんたるー(完結) 2 「ハァ……」 またやってしまった。 有紗のそばにいるためとはいえ、我ながらよくあんな嘘が言えたものだ。 この子を守りたい。ただそれだけの純粋な想いが、長年実直に輪をかけた雨宮の生き方を変えさせたのだ。 静かにベットの脇に腰をかけ、有紗の頭を撫でてやる。 ふわりと柔らかい髪の毛が指先に絡まり、たゆたさに愛しさがこみあげ、思わず目を細めた。 「有紗……」 運命とは皮肉なものだ。 義務にしか感じていなかった幼い少年への恋心を自覚した途端、別の男に奪われてしまったのだ。 こうして有紗を熱のこもった視線で見つめていられる時間も、ほんの僅か。 一時間なんて、すぐに過ぎてしまうだろう。 「パパさ……?」 頭を撫でる感触に意識が目覚めたのだろうか。 薄く瞼を開けた向こうから、有紗の潤んだ茶色の瞳が、少年に見惚れていた雨宮の姿を映しだした。 雨宮の心臓が、ドキリと強く飛び跳ねた。 「パパさ……っ、パパさん……っ」 なにも身に纏ってない無垢な体のまま、雨宮を見るなり涙をポロポロと流して縋りついて来たのだ。 「有紗……」 ……抱き締めたい。 君を……思いきり、強く抱きしめてやりたい。 昨日まで当たり前にできていたことが、こんなにも尊い行為だったなんて……。 腰元にじんわりとつたわる熱を感じながら、もっと早く有紗に恋していればと……、甘酸っぱい動悸と共に訪れるのは、どうにもならない後悔だった。 「パパさん……僕のこと、嫌いにならないで、おねがい……」 嫌いになど、なるわけがない。 愛らしくてたまらない有紗に、急激に惹かれているのに。 上條に抱かれる有紗の姿を見て、自身の雄を昂らせるほど有紗に欲情してしまったのだから。 ウサギのような愛嬌あふれる瞳いっぱいに涙をためこみ、「ごめんなさい」とさらに強くすがりついてくる。 「君を……嫌いになんてならないよ」 抱き締めたくてたまらない。 滑らかな君の素肌は、いったいどんな感触なんだろう。 刻々と過ぎる時に追われながら、名前を呼んで頬を両手で包み込んだ。 「前よりもずっと、有紗が愛しい」 有沙の柔らかさを感じると、もはや自制がきかず胸のなかにかき抱いた。 涙にぬれた少年の顔を覗きこんで返す。 有紗は驚いたように雨宮を見つめ、ただ一言「うれしい」と顔を紅潮させながら見つめて笑った。 ――君が可愛くて死にそうだ。 自分の腕のなかで、安堵に包まれた愛しい少年の瞳に吸い込まれていく。 二人の絡まる視線が、お互いを認識できないくらいに接近している。 「有紗……」 思ったとおりの柔らかい感触を唇に感じ、男の胸の鼓動がさらに早くなる。 突然のキスにも有紗は驚いた顔一つみせず、首元に両腕を回してギュッとしがみついていた。 時折しゃくり泣きながら自分を呼ぶ可愛い唇を塞ぎ、なんどもついばんだ。 胸の奥が、ジリジリと痛い。 まるで灼熱の太陽の下に晒されたみたいに、体中が熱くてたまらない。 情熱と恋心に焼け焦げて、僕の心にとめどない嫉妬と切なさが増していく。 「センセ顔、赤いよ」 部屋から出るやいなや、リビングの壁にもたれかかりながら詮索するように上條が言った。 「……大人をからかうものいい加減にしろ」 目も合わせないまま自室に戻るといくつも深い溜息がでてくる。 自分の口元を指でなぞり、有紗の柔らかさに想いを馳せた。 [*前へ][次へ#] |