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REN†ALーれんたるー(完結)
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毎週の会議のせいで業務報告が遅れた。

一週間ためこんだ日報と一緒に有紗の近況報告をするはずが、社長が明日から旅行に行くという。

仕方なく昼すぎに仕事を切り上げることにした。

現役教師と違って補佐となるともっぱら資料集めとデスクワークが中心だ。

雨宮が抜けて授業に支障が出ることもなく、思ったよりスムーズに早退できた。

この忙しい時に旅行だなんて、あの人は何を考えてるんだか。

一緒に仕事をして分かった。あの人はおそらく強力な運だけでここまでやり過ごして来たに違いないと。

人には無理難題を振りかける割に、たまに本社へ電話をかければ出社さえしてないことがほとんどだ。

毎週遅くまでかかってファイリングした資料でさえも、クライアントとの表面的なやりとりから推察する限り、適当にしか読み込んでないだろう。

最近思う。

この企業は、優秀な社員ありきで存在していると。

まさに今、彼と仕事をしてみて強く実感する。

上條連介は、うわべだけ着飾った本社の装飾にすぎない。まさに反面教師の鏡だ。

その証拠に、さっきからバックミラー越しに黒光りするRolls−Royceが後をつけているのが見える。

おそらく報告を怠った自分を幾らか不審に思い、連介が出させたものだろう。

この型の7の連番プレートを見て、僕が勘付かないとでも思ったのか。


「あの人は……」


案の定、ピタリと張り付いたRolls−Royceは、本社の駐車スペースまで付いてきた。



社長室に入るや否や、報告書を怒り半ばに連介の前に叩き付け、今しがたの件を問いただしたが、「何のことだ」と尋ねるばかりだった。

しかも提出させるだけさせて、もう帰っていいと言う。

せっかく秘書として出社したにも関わらず、それ以上の業務を与えられなかったのだ。

正直、面白くない。

有紗の件が納まったら、退職願いを提出してやろうか。

本社に出向いて約5分。奥に停車していたRolls−Royceは、早くも姿がなくなっていた。



***



そろそろスーツスタイルで暑さが滲んできた金曜日。

夜の見回りがあるからといつものように家を出ようとする雨宮を、やはり有紗は泣きそうな顔で「行かないで」と引きとめた。

今日はとくに、腰に両腕を巻き付けて離れようとしないのだ。


(僕だってそうしたいさ)


社長の仕事ぶりに苛立ちを募らせてストレスを煽るくらいなら、有紗とまったりとした時間をすごすほうが余程落ち着く。

最近は特に、同じ時間を過ごすほど有紗のことが可愛く思えてしかたない。

名残惜しさもあるものの、絡まった両腕をそっと解き、部屋を後にした。






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あきゅろす。
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