野獣 野獣 「俺の目の前で、スーツ脱いで全裸になってよ、センセ」 人影のなくなった夕方の校舎の一角。 薄暗いカウンセリング室で、3年A組副担任の志摩渚(しまなぎさ)は、彼の担当クラスの生徒である桐谷樹生(きりたにたつき)に脅されていた。 事件は、数時間前にさかのぼる。 つい出来心で修学旅行費用をくすめる所を桐谷に目撃されてしまったのだ。 『見ぃちゃった、渚ちゃん』 ハッと後ろを振りかえり青ざめる渚と反対に、桐谷の方は携帯を片手に、まるで長年探し求めていた宝物でも見つけたかのように、とても嬉しそうに口の端を吊り上げてニタリと笑っていた。 『この事は黙っててやるから、今日から俺の奴隷になってよ渚ちゃん』 あとは渚の想定した最悪のシナリオとおり。史上最悪な学園生活のはじまりだった。 「脱いで、渚ちゃん」 部屋に入るなりふてぶてしく壁に寄りかかると、腕組みしながら桐谷が言う。 「なっ、そ、そんな事できるわけないだろ!」 「ふーん。じゃあさっきの画像、校長に流していいの?かわいそー、渚ちゃん新任なのにクビだね」 そう言われて、現場写真を撮影したという携帯をチラつかされれば押し黙るほかない。 「ホラ脱げよ。それとも俺に無理やり剥ぎ取られてえの?」 桐谷は渚が新任教師として配属になった当初から異常なまでに執着してきた生徒だった。 どうみても男である渚の事を『渚ちゃん』とよび、住んでいるアパートや携帯番号を教えろとしつこく要求された事さえあった。 「脱……ぐから」 渚はとうとう観念したように、身に付けていたスーツを脱ぎ始めた。 ジャケットのボタンをはずし、肩から床におとす。布がこすれてパサリと乾いた音がする。 小刻みに震えはじめた手元でなんとかネクタイをはずし、カッターシャツの前のボタンを開けた。 アッシュゴールドの髪に青色のカラコン。普通に街中ですれ違ったならば、男女違わず振り返るだろう、皮肉なほど整った顔だちが、満足げにゆがんだ。 まるで獣の魂が乗り移ったような肉肉しい脅威を放つ彼に、いまや指導を試みる教師は一人もいない。 「いいねえその悔しそうな顔。いますぐ押し倒したくなるよ」 白いシャツの下に隠されていた、渚のなめらかな素肌をうっとりと眺めながら桐谷が言う。卑しげに吊り上った口角のはしから舌舐めずしまでしながら。 ようやくその手がベルトにかかったとき、「ちょい待て」桐谷が動きをとめさせた。 「こっから下はやっぱ俺達に脱がさせて」 「え……?」 渚は怪訝な表情をうかべて桐谷をみた。 いま室内にいるのは、渚と壁にもたれかかっている桐谷だけのはずだ。 それなのにどうして彼はわざわざ『俺達に脱がさせて』と意味深なことを……。 「たまんねー。渚めっちゃいい匂い」 考えを整理するまもなく、とつぜん後ろから紺色のブレザーの両腕が飛び出してくる。 「ヒッ……!?」 驚いて声をだしかけた渚の口を、伸びてきたブレザーの左手が強引にふさいだのだ。 ついで右腕が、無防備にさらけだした胸元にあてがわれ、まるで後ろに引き摺られるようにして倒れこんだ。 いつの間にか部屋に侵入していた別のだれかがテーブルのうえに腰かけているらしく、渚はその男の膝のうえに上半身を乗り上げさせられている状態になっていた。 「おいおい、乳首勃ってんじゃねーの。やらしーね渚は」 ハアハアハア……。 恐怖でこわばってしまった渚の華奢なからだを、後ろにいる男が抱きすくめている。 「ハァ……。渚のおっぱい、凄えふっくらしてる。たまんねえ」 乳輪の感触を楽しんでいるのか、手のひらはべったりと左胸にあてがい、執拗になでさすっていた。 ほどよい力加減で愛撫されているせいか、乳輪の先端がこすれるたびゾクゾクとわなないている。 悟られまいと、渚は強く唇をかんで耐え続けていた。 「テメェさ、俺のオンナに勝手に触ってんじゃねえよ。お前は見てるだけつっただろうが」 すぐさま桐谷がつめより、オンナとか何とかと意味不明なことを口走りながら、左胸に充てられた手をつねり上げるが。 「あいてて。いーじゃん触るぐらい。俺は渚とセックスできねえんだから、今日は。夜のオカズくらい分けてよ。今日はな」 相手の男は、普通の生徒なら青ざめてしまうだろう桐谷の恫喝にもいっさい動じていない。 それどころか渚の首元に顔をうずめると、これみよがしにうなじから耳の裏までをねっとりと舐め上げたのだ。 「ヒイッ……!!」 突然生ぬるいなにかに素肌を貪られ、悪寒とともにとうとう悲鳴が漏れ出した。 「渚ぁ。お前のからだって何。どーしたらこんなに甘い味になんの」 桐谷の顔が、みるみる険しくなっていく。 「芯。お前さ、二度と女を抱けねえ体になりてえの?」 「ああ、なりたくないよ勿論」 「は?何か言った?」 「あーはいはい」 『芯(シン)』と呼ばれた男は飄々とこたえると、しばらく渚をぎゅっとだきしめたのち、名残惜しそうにそっと首元から唇をはなした。 「調子に乗ってんじゃねえぞ。渚をみつけたのは俺だ。渚を捕まえたのも俺だ。お前がコイツに手出しする資格なんてねえんだよ」 桐谷はそう言い捨てると、ベルトの緩んだ渚のスラックスに手をかける。 荒々しく片手でホックをあけ、スラックスとボクサーパンツを同時に掴んだ。 「や……っ」 裸にされる事を悟ったとたん、無意識に防御本能がはたらいた。 無我夢中で両脚をバタつかせるが、後ろから羽交い絞めにされている状態ではどうにもならず。 ズルズルと虚しい音を引きつれて、あっというまに衣服をひざ下まで引き下ろされてしまった。 さらに暴れる渚の体を、『芯』と呼ばれた男が羽交い絞めに。 桐谷は、スラックスのひっかかった太腿を持ち上げた。 「いや、いやだ……っやめろっ!」 「やっぱ毛は生えてんだ」 楽しそうに口ずさみ、さらに下肢を折り曲げる。後ろにいる芯が、上半身と一緒に腕のなかに抱え込んだ。 まるで、赤ん坊がおしめをかえる時のようだ。 男性器や肛門まで、なにもかもが桐谷の前にむき出しにされている。とたんに、数年前の悪夢が、渚の脳裏によみがえった。 「やめろ……、見るな、見るなぁぁ!!」 「無理だよ渚。ほら、こんなエロい恰好しちゃって。ハァ。お前、きん玉まで肌色なのな。たまんねえ」 激しく抵抗する渚をいっそうがんじがらめにしつつ、芯が耳元でささやけば。 「けど、男にしちゃあ薄いよな。チンコの回りに少し生えてんのが、渚ちゃんらしくて可愛い」 桐谷は、真っ白な尻に手をあて、左右に割りひらこうとする。 奥に隠れている蕾に、冷たい外気があたった。 「ヒッ……」 「渚ちゃん、ケツマン綺麗なピンクじゃん……。すっげ」 肉体を強引に割かれる。一方的な行為に、思い出したように背中が戦慄き、一気に虫唾がはしった。 男に襲われるのは、初めてじゃない。高校生時代、同級生らに相次いで凌辱された苦い経験が渚にはあった。 忘れようとしていた古傷を、二人の男にえぐられているのだ。 「ん、渚、泣いてんの?そんなに俺らにレイプされるのが怖い?」 気がつけば、自覚さえないうちに、つぶらな瞳からとめどなく涙が溢れ出していた。 何人もの男に貫かれる、あの痛みと恐怖がもう一度訪れるかと思うと、怖くて怖くて仕方なかった。 友人だと思っていた仲間に、縛られた。頬をぶたれた。制服は引き裂かれ、抵抗するお前が悪いのだと言われた。 考えもしなかった場所にペニスを入れられ、律動するたび痛烈な痛みが奔る。 ――また、あの痛みと恐怖が、僕を縛り付けるのか。 「安心しろよ。大事に抱いてやるから。こんな綺麗な身体に傷なんか付けれないっしょ」 桐谷は中腰になるといっそう顔をよせる。 しばらく渚のアナルにうっとりと見入っていたが、そのうち舌を突きだし、そこをペロペロと舐めはじめたのだ。 「ハッ、アッ、や……っ!?」 思いもしなかった行動に、渚の身体が跳ねた。 桐谷がそこを舐めるたび、ビクビクと尻がうごき、腰が上下する。 まさかこんな所を舐めるなんて……。 渚は桐谷の行動が信じられず、言葉さえなく涙目で見下ろした。 ぴちゃぴちゃ……ぴちゃぴちゃ……。 人の舌が、こんな汚い部分を舐めている。 シワシワに窄まった部分を、柔らかいぬめりが滴るたび、不気味な感覚に鳥肌がたった。 しかし、卑猥な音が聞こえるたび、なぜかゾクゾクとした寒気もせり上がっている。 肛門の表面を舌で擦られると、むずがゆく、全身の力が抜けてしまいそうになるのだ。 ピチャピチャ……ピチャピチャ……。 「んっくふぅ……っふっう……」 そのうえ呼吸のたびに、変な声が漏れている。 弱々しさが鼻についた、まるでメス猫みたいな甘い声。喉仏にひっかっかった低い声が、たびたび裏がえる。 ぴちゃぴちゃ……ぬちゃ……くちゅくちゅ……。 桐谷はアナルの表面をなめつつ、舌をとがらせ、それを入り口に突きたてはじめた。 「んっあぅ……あっひ……っ」 肛門のなかにそれが押し入るたび、寒気がとまらない。 電流のようにピリピリと、だけどその感覚は甘い。じっとりと甘く、蕩けてしまいそうな感覚だった。 それが何なのかもわからぬまま、ひたすら自身の声に驚くばかりだ。 「大人しくなったね。渚、気持ちいの?」 そのうえ、後ろにいる芯が、ハァハァと呼吸を荒くしながら渚の両乳首に手をのばす。 ツンと上を向いている小さなとっきを摘まみあげ、クリクリと指先で左右にこすられると、その感覚は倍増した。 「……ハッ、アッ……!!」 未知の快感に、おもわず喉が反りかえる。 ひゅっと息をすいこんだ瞬間、アナルを愛撫する妙な感触が、とつぜん突きたてるような圧迫感に変わった。 思わず口をあけて息を大きく吸い込もうとするが、呼吸が止まったかのように続かない。 かわりに背中を波うたせ、違和感の正体に目をむける。卑猥に左右に割り開かれた股のあいだから、桐谷の欲に逆上せた顔がみえる。 その目線は、交差させたひと差し指となか指へ向いていた。 いつから用意していたのか、指先は潤滑液で半透明にぬれており、尖端から第二関節のあたりまで、ときに半回転させながら、渚のアナルから出たり入ったりを繰り返している……。 「ヒッヒイ……ッ」 そこから体内すべてを蹂躙してしまう、得も言われぬ不快感に思わず悲鳴が漏れだした。 同時に、桐谷の指先が、さらに深みに挿しこまれる。 一片の躊躇さえなく、二本の指をいっきにつけ根まで押しこみ、内壁を捏ねくりまわしはじめたのだ。 「や、め……やめろっやっ……アアッ」 「渚ぁ……すっげえ可愛いよ」 芯か桐谷か、もはやどちらのものともつかない溜息まじりの声が聞こえる。 揉みしだかれた乳首が弾かれて、ますます勃起させている。 桐谷は切羽つまったような荒々しい呼吸を繰りかえし、渚の睾丸を片方ずつ吸いあげた。 強引な射精感に苛まれ、たまらず先端から愛液が漏れだした。桐谷は、それを舐めとるように渚のペニスの根本から舌を這わせ、ペロペロとねぶりながら先端からカプリと咥え込んだ。 突然ペニスにおとずれた、甘い快感に酔いしれる間もなく、アナルに突きたてた指先が、あらぬ方向へ曲げられる。 ジンジンと痺れをもった変な射精感が、急に渚の脳裏をおそった。 そこを強くおされる度、一瞬ちからがぬけて、モヤモヤした奇妙なわだかまりが、渚の体内でじわじわと快感に変化していく。 服従的な愛撫に、屈服するものかと歯を食いしばって耐えるが、内壁をうごきまわる桐谷の指は次第に強く、早くなる。 よせてはかえす波のような快感も、次第に強くなり、それは体の内側からじわりじわりと迫ってくるようだった。 たまらず、ペニスがとうとう内側から痙攣する。 待ち構えていたかのように、渚の男性器のそれごと、桐谷は口のなかへ頬張ると、喉をゴクゴクとしならせながらひと思いに奥まで呑みこんでいった。 「アッああアッ……ンンッ!!」 感じるところ、すべてを愛撫されている。 もう、どこにも逃げ場がなかった。声をあげても、悪夢のような快感は収まらず、彼らの思惑どおりに、ただただ昂った快感を貪らされるだけだ。 頭のなかが真っ白になって、絶頂に昇りつめると同時に愛撫が止められる。 たまらずこぼれ落ちた渚の愛液をおいしそうに舐めとりつつ、桐谷は不敵にほほ笑むとふたたびペニスを咥えこんだ。 「やめ……やめてっやめ……ああっや、いやだぁぁっ」 もはや痛みすら感じなくなった秘孔を、ローションと愛液で濡れそぼった指先が獣のような性急さで動き回まわった。 すぐさま精管のなかを精液が駆け上がる。ねっとりと甘い口内でペニスをねぶられ、二回目の絶頂はあっというまにおとずれた。 「駄目。まだイカせてやんない」 楽しそうに呟いた桐谷の声が聞こえたと同時に、またもや愛撫が消える。 脳内にたまたわだかまり全部、吐きだしてしまいたいのに……。 それすらも叶わず、失望感とともに漏れ出した愛液が、ふたたび虚しく渚の勃起をつたっておちた。 ――20分。 まるで悪夢のような愛撫地獄は、あれからずっと続いている。 もう、声をだす気力さえない。かわりに喉元をすぎていくのは、終りのみえない絶頂を乞う、絶望的な溜息のみだ。 摘み上げられた乳輪は飴玉のように膨れ、全身はもはや、のぼせ上ったように桃色に色づいており、やけに艶めかしい。 まるで壊れた玩具のように、延々と愛液と唾液を垂らしつづける渚を、獣とかした男らが前後から視姦している。 興奮が頂点に達しているせいだろうか。男独特の匂いが室内に充満している。密室に閉じ込められ、ねっとりと終わらない桐谷の前戯に、渚の精神はすでに崩壊していた。 「フウ……ッハァッアゥァ……んふ……」 つきささる目線にさえ、背中が粟めきたるほどだった。男が欲しくて欲しくて、たまらない。 ダランと舌をだし、唾液を滴らせながら、訳も分からず全身がふるえている。 その姿はまるで、発情した淫乱な雌犬のようだ。 「欲しいだろ、渚」 「ふ、ぁ……」 桐谷が、我慢の限界みたく上ずった声をだし、スラックスからそそり立った勃起を出してみせる。 焦点のおぼつかないトロンと蕩けきった目がそれを見つめ、物欲しそうに潤んでいる。 「ここにたっぷりやるから、俺のでイけよ」 「ぁぁ……っ」 瞬間、今まで味わったことのない圧迫感が、渚の秘孔をおそった。 内壁のすべてが埋め尽くされ、ふたたび息がつまる。だけどそれは一瞬のうちで。すぐさま脳裏を真っ白にそめる甘たゆい快感に変わった。 異物感はすでになく、男に貫かれているという屈辱よりも、快感のほうが強くつきまとった。 「はぁ……ッおっき……んぁぁ」 渚を愛撫している最中に、すでに出来上がってしまっていた桐谷のペニスは、腹這いに反りかえるくらい勃起していた。 けれど、腰を数回前後させるゆるいピストン運動だけで、凶器のような彼の勃起のすべては渚のなかに咥えこまれていった。 「……っ」 天井をあおぎ、至福にひたっているのか、桐谷はフウと溜息をもらした。 しばらくしてゆるりと腰を引き、ひと思いに渚のなかを貫きはじめる。 肌と肌がぶつかり合うほど、強く激しく。 渚がより感じるよう、腰骨を両手でつかむと机から浮かせ。潤滑液が、打ち込んだ衝撃でぱちゅんっと音を立てて漏れ出している。 先端まで抜きだすと、荒々しく内壁を擦りあげ、ふたたび貫いた。 桐谷のペニスが、ジンジン痺れていた前立腺をこすり、一瞬にして目の前が真っ白にそまる。 待ち侘びた快感に渚の体内は歓喜に濡れ、動物のように鳴き声をだしながらその愛執に溺れた。 ガンガン突かれて、一気に追いあげられて。同時に桐谷が渚のペニスを扱きじ始めるとひとたまりもなく、溜まりかねた精液が勢いよく飛びだした。 目のまえが、霞がかったのかぼやけている。桐谷の雄が奥に入ってくるたび気持ち良くて溜まらず、いつの間にか涙をながして悶えていた。 やがてピストンが小刻みにかわる。 まるでバイブレーションみたいな振動とともに、亀頭が内壁を圧迫する。 まるで涎みたいにトロトロと、精液が漏れ出している。それはやけに濃厚で、ねばこく糸を引いて垂れ堕ちているのだ。 「あ、あ……ん、う、ふぁ、ああ、ん」 もう何も考えられず、与えられるまま、その快感に浸った。 「んあ……っ渚……渚、渚ぁ……!!」 ピストンが再び速まり、渚の下半身が思いきり上下に揺れた。 いつしか桐谷の両肩に腕をまわし、彼の味を貪っていた。 口から漏れ続ける唾液を舐めとられ、喘ぎごえが桐谷の口の中に消えていく。 もやもやと体内にくすぶっていたわだかまりが、今度こそ絶頂まで追い立てられていく。 切なげに眉を寄せた桐谷が、苦しそうに呻き声をあげた直後、その欲望のすべてが渚のなかに放たれた。 同時に何度目かの精を放出させた渚は、そのまま彼の胸の中に倒れ込んでいた。 *** 気が付けば、床のうえだった。裸のまま、そのうえから同情程度にスーツのジャケットがかけられている。 『今度は俺ともセックスしてね。芯』 くしゃくしゃのプリント用紙に書かれた、つぎの関係を催促させるような置手紙に、渚はただ呆然とその場にしゃがみこむだけだった。 |