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愛執染着Rhapsody
許容範囲


誰もいない教室に2人だけ。




その中の1人、薫は内心ひどく焦っていた。


どうしてこうなってしまったんだろう。


それだけが頭の中をぐるぐると回っている。

他にもきっと考えなければならないことはたくさんある。
あるはずなのに。

それができないのは。


「野垣」


きっと、後ろから腕を回すこの男のせいだろう。

首もとに、しかしやんわりと。

優しすぎて戸惑うぐらいに。


「か、かか川口くんっ!」

「何?」

「は、離してっ」

「あ、…もしかして首弱かった?」


笑いを含む返答に、そういうことじゃなくてっ、と言いたい所だが、相手は分かって言っているのだ。
勝ち目なんか少しもない。


「どこまでなら、大丈夫?」

「…えっ」

「さっきの話。嫌じゃないって、どこまでなら平気?」


諦めきれずにじたばたもがいていた薫は、固まった。


「どこまで、って…」


頭の上から聞こえた不意の問いかけに、答えられる訳がなかった。


うぅー、と呻きつつ考えていると、いつの間にか腕が外れていて、今度は肩を掴んでくるりと回転させられる。

視線をあげれば整った顔が目の前にあって、慌てて目を逸らしてしまった。

明らかにあたふたしている様子の薫に直人が笑う。
薫が気づいていないだけで、その瞳は驚くほど優しい。


「さっきみたいに後ろからは駄目なんだよな?」

「だ、駄目」

「じゃあ、前からは?」


おもむろに腰を抱かれて。
回された腕から密着した体から、熱が伝わってくる。

もうこうなると、心臓が早鐘を打つ、なんてかわいらしいものではない。
まるで和太鼓を間近で聞いているみたいに、荒れ狂うほど体中に響く。
こんな事をされたのでは、とてもじゃないが心臓がもたない。


「―――そ、それも駄目…っ」


慌てて直人の胸を両手で突っぱねてみるものの、びくともしなかった。
逆に、楽しそうだし余裕たっぷりだしで憎らしくて。

ぐぐーっと力を入れて体をそらしていた薫は、突然外れた腕に驚いた。
思い切り体重を乗せていたものだから、反動で体が後ろに勢いよく倒れる。

やばいっ、とぎゅっと目を閉じて衝撃を待つが、いつまでたってもこなかった。

恐る恐る目を開けると、どうやら手を取って支えてくれたらしい直人が苦笑している。

ごめんと謝まってくる彼に、わざとだったのかと気づいたものの、もはや怒る気にもなれず。


「…こうやって、手を繋ぐのは大丈夫?」


諦めにも似た溜め息をついた薫に、笑いを納めた直人が優しく聞いてくる。

これまでと違って、伺うようなその様子に。


「―――っ、これ位なら…大丈夫、かも」


気付けば、こくりと頷いてしまっていた。





2010.9.15〜10.14 拍手小話
加筆・修正してあります。


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