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愛執染着Rhapsody
逃げられません


叫んだ薫は、自分の口からでた言葉に、しまったというように直ぐに口を押さえた。
勢いではあったものの、その内容がじわりと自分の中に広がっていく。


直人は目をパチリと瞬きしてこちらを凝視しているし、居たたまれないことこの上ない。

ただひとり、その中で海里だけが直ぐに落ち着きを取り戻したようだった。

予感が、確信に変わった。


「…あー、そう。そういうことね」


小さく呟いたそれは、静かな教室に響く。

同時に、にやりと笑った彼は、縋りつくような薫の視線からすいと逃げた。


「じゃあ、今度こそ2人でちゃんと話し合えるよな?」


言外に『きっちりカタつけろ』と含ませて。


「かいり…っ」

「じゃーな、バイバイ」


ひらひらと手を振って、2人を残して教室を出て行く。
今度は戻ってくるつもりなど毛頭ないのだ。





それを唖然と見ていた薫は、いつかの光景を繰り返しているような錯覚を覚えた。




















残されたのは、重い沈黙。

直人を避け続けてきた薫にとって、それは本当に重くのしかかってきて押しつぶされそうだ。


何か言わなければ、…いやそれよりも、ここから逃げるのが先決か。


向かい合っている状態を打破するべく踵を返した薫の腕を、がしりと掴んだのは他でもない、直人だ。


「な、ななな…何っ!?」


振り向くことさえできず、顔すら見えていないのに声が震える。
動揺でまともに頭が働かない。


「さっきの、本当?」

「……」

「『いやじゃない』…そう言った」


ピクリと小さくではあるが体が震えたのは、捕まれた腕から伝わってしまったのだろう。
くすりと笑う声が聞こえて、薫はますますどうしたらいいか分からなくなっていた。


内心わたわたしていたところに、突然腕を引かれる。


後ろにひっぱられて、不意打ちに薫の体が傾く。
うわ、と思ったときには、背中に暖かい感触があって。





気づけば、直人に後ろから抱きしめられていた。





2010.8.9〜9.14 拍手小話
加筆・修正してあります。





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あきゅろす。
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