愛執染着Rhapsody
はじける赤、ふるえるのは…
「一応聞くけど、薫に何した?…返答によっては俺にも考えがあるんだけど」
ここまで薫が逃げるのは、何か理由があるに違いない。
責任を、少しばかり感じている海里が問い質す。
「…ちょっ、まっ」
「キスした」
「―――はぁっ!?マジか!」
薫が止めようとしたのは間に合わなかった。
海里は驚きで目を見張り、一瞬飛び出しかけた薫は海里と顔を会わせられずに、また背中に隠れた。
ただ、爆弾を落とした直人だけが飄々としている。
「だって、今までずっと遠くにあるものだと思ってたのに、手が届くほど近くにいて…。触れるだけじゃ足りなかったんだ」
「−−−お、お前、多分なんか色々すっ飛ばしてるぞ!?」
そりゃ薫も逃げるだろうよ。
海里の心の叫びは、果たして直人に通じたのか。
薫に視線を合わせた直人は、小さく笑って。
けれど、すぐに真剣な表情に変わる。
「野垣に近づけて、浮かれてた。多少、強引だったかもしれない。…でも、キスのことは謝らない」
「……っ」
どうして。
どうしてなんだろう。
自分も相手も、男、なのに。
――――顔が熱い。
そのまっすぐな目に射抜かれているようで、心臓がうるさい。
いや。
体中が心臓になってしまったような気さえして。
思わず、隠れていた海里の背中にしがみついてしまった。
軽い衝撃に、訝しんだ海里が振り向いて。
うつむき加減の薫にまた小さく溜め息をついた。
けれど、その耳が赤いのが見えて、小さな仮定が海里の中に芽生える。
「…なぁ薫。もし、嫌なら…」
正面から、嫉妬を含んだ痛いほどの視線をびしびしと感じながら。
おー、睨んでる睨んでる。
…っつうか、みんながお前と同じと思うなよ。
どう考えたって、お前少数派だろーが。
それを無視しつつ、今日何度目になるのかもう数えるのも嫌になった溜め息をついて、薫の言葉を待つ。
もし嫌なら、友人としてやらなければいけないことがある。
でも、そうじゃないなら…?
「……ゃ、…」
「え?」
蚊の鳴くような、というのがぴったりな。
小さな小さな声を、危うく聞き逃すところだった。
「…いやって、思えないから…っ―――困ってるんじゃないかっ!」
思わず聞き返した言葉に、薫が大きく反応した。
これ以上に無いほど、顔を赤くして。
2010.6.24〜8.8 拍手小話
加筆・修正してあります。
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