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愛執染着Rhapsody
一体どうしたらよいのか


こんなにも戸惑うのは、生まれて初めてかもしれない。










「野垣、今日の講義終わったんだろ?一緒に帰ろう」


あれから毎日のように、直人からのお誘いがある。

教室をでてすぐ、待っていたかのように声をかけてくる相手を、無視することは薫には出来ない。

その度に有りもしない用事を理由に断り続けて……しかしながら、それは5日と保たなかった。


「き、今日は海里と…っ」

「悪い、俺無理」


頼みの綱にあっさりと断られば、逃げ道はもうない。

それでも往生際悪く理由を探そうとする薫に、海里がじっとりと冷たい視線を寄越してくるのをひしひしと感じる。

だからといって、分かったと言えるほど薫はまだ落ち着けてはいなかった。

直人の顔を見るたび、声を聞くたび、あの日の事を思い出す自分がいる。


いまだに感触が残っているようで。


そっと自分の唇にに触れた薫は、また思い出してかぁっと顔を赤くさせた。


「あのなぁ、俺、ちゃんとケリつけろって言ったよなぁ?…なのに何で今、こんな状態になってるわけ?」


背中に隠れた薫に溜め息をつきつつではあるものの、直人を正面に見据えた海里の言い分はもっともだ。


「本気だって言うからお膳立てしてやったんだろ」


薫には言ってなかったが、頼み込まれて承諾したのは自分だ。

あの日、あの教室で二人が話し合えればと計画を立てたのも。





辺りに沈黙が降りる。

残っていた学生たちも、三人を気にしていたようだったが、もう誰もいなくなっていた。





ようやく落ち着いた薫が、海里の背中越しにちらりと直人を盗み見る。

その瞬間目が合ってどうしようかと内心焦っていると、不意に直人が微笑んで。


「本気なんだ、…ずっと前から」


静かな、耳に心地よい声。

直人と会話しているのは海里のはずなのに。

なのに、視線は海里を通り越して自分を見ている。





薫の心臓がどくりと跳ねた。





2010.5.29〜6.23 拍手小話
加筆・修正してあります。


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あきゅろす。
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