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愛執染着Rhapsody
初対面に近いのですが


「野垣、今、良い?」

「いんじゃねー?どのみち講義には間に合わないし。な、薫」


何故か海里が答えて、ひらひらと手を振りながら、教室を出て行く。

面白そうににやりと笑っていた海里に、嫌な予感がしたが遅かった。

こういう顔をする時の海里は、いつも薫にとっては良くない事を考えている事が多くて。
そしてそれは、今回も例外ではなかった。


「1時間後に戻ってくるから、それまでにケリつけといて」


そう釘を刺すのは、忘れずに。










「…うそつき」


海里が出て行った後、残された薫の第一声はそれだった。

言われた本人は困ったように笑うだけだ。


「…どうして間違ってるって言わなかった、の?」

「言ったら、断るだろ」


間を置かずに即答される。
急に真剣な顔をされて、正直返す言葉に迷った。


「野垣、俺のこと嫌いだろ?」


直人はそう言ったが、別にそういうわけではなかった。

逆にその性格は、人見知りする薫にとってはうらやましいものだったし。

とはいえ、つい一週間前まで話したこともない相手。
嫌いもなにも、よく知りませんというのが正直なところだ。

それをどう伝えたらよいものか、と困っている薫に、直人は満足げに口の端を上げた。

どこかで見たことがあるその顔に、どこでだったか考えていると、目の前がふっと暗くなる。

影の正体は直人しかいない。

ドアのところにいたはずなのに、いつの間にか目の前に来ている。

190p近くもあるその長身を、168pと平均身長を少し下回る薫はもちろん見上げることになって。


「…嫌いじゃないなら、いいか…」


薫に問い掛けているのではなく、自分に言い聞かせているような、そんな口調だった。

まだ何も言ってないのに、どうして分かってしまうんだろう。
首をかしげる薫に、直人はなぜか笑みを深くした。


「そういう仕草は、よくないんだぞ…?」


その言葉と同時に、すっと身をかがめた直人の顔が目の前にある。

あぁ、海里のあの企み顔にそっくりなんだ。
それでも、川口くんってやっぱりかっこいいんだなぁ。

なんて考えていると唇に何か触れた。

ほんの一瞬のことで、それが何だったのか分からない。

柔らかくて、少しひんやりして…。

まるでそんな風に、自分の唇に人差し指と中指を這わせる薫に、直人が苦笑する。


「キスのときぐらい、目を閉じてくれると嬉しいんだけど…?」


その言葉に、はっと我に返る薫。
意味を理解したとたん、顔が赤くなって、直人の目線から逃げるように俯いた。


「なっ…え!?」


驚きでまともに声が出ない。
直人はそんな薫の頭をひとなでしてから離れると、ドアのところで立ち止まり、振り返った。

俯いてる薫には見えなかったが、柔らかく笑っている。


「じゃあ俺は行くけど。……今度は連絡するから」


そう言って教室を出て行く直人。

きっかり一時間後に戻ってきた海里に声をかけられるまで、全く動けずにいた薫だった。





2010.5.9〜5.28 拍手小話
加筆・修正してあります。




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あきゅろす。
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