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愛執染着Rhapsody
穴があったら入りたいかも


「―――薫!お前、あの川口の告白、OKしたんだって?」


幼なじみの荒井海里に会うなり、そう言われた。

彼は人見知り気味の薫と違って、気さくで明るくて友人も多い。
昨日も会っていたのに、いきなりなんだろう。


「告白?――まさか!ただ遊ぶ約束をしただけだよ。…どこへ行くのかは聞かなかったけど」


薫は即座に笑って否定した。

それにあれは、もう一週間も前の事だ。

校内にある桜は、もう散ってしまった。
あの時は凄く綺麗だったのに。

彼はきっと忘れているはずで。

薫の言葉に、海里は不思議そうな顔をしたが、すぐに思い直したように聞きなおししてくる。


「お前さぁ、川口になんて言われた訳?」


一限目の教室に向かう隣を歩きつつ、薫を覗き込む。
にやりと笑うその顔は、明らかに面白がっている。


「ええと…『俺と付き合って』?…だったかな」


それに気付かない薫が答える。
あの時のことを思い出しながら。


「ふうん?―――で、お前はなんて答えたんだよ?」

「『いいけど、どこに?』だったと…」


とたんに、海里は声をあげて笑い出した。
そうされる理由が分からないが薫は、ただ驚くばかりだ。

ヒイヒイ笑いながら、海里は薫の腕を掴んで、近くの空き教室に押し込んだ。

海里の笑い声で注目を浴びつつあった所だったから、正直助かったのだけれど。

海里が落ち着くのを待ちながら、くるりと見回す。

今の時間は使われていない、ここは…。
そうだ、一週間前のあの教室。

あの時の直人の事を思い出して、何故か落ち着かなくなる。


「ははっ…あー、つらい。薫、―――お前の答え、間違いな」


ようやく笑いのおさまった海里の口からは、彼にとって意外な言葉が出てきた。

何のことだか分からず首をかしげる薫に、海里は親切に説明してやる。


「お前の言う、遊びのお誘いだったら『俺に』だろ。『俺と』なんて、そりゃお前、告白しかないだろうが」


どうして今まで気がつかなかったのか。

理解したとたん、顔がかっと熱くなった。

これ以上は恥ずかしすぎて、どこかに隠れてしまいたい。


「で、でも、違うなんて一言も…」

「言わないだろうなあ……なぁ、川口?」


いつからそこにいたのだろう。

訳知りの海里の声。
それに弾かれたように顔を上げた薫の前、教室のドアの所に、困ったように笑う直人がいた。





2010.4.15〜5.8 拍手小話
加筆・修正してあります。


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あきゅろす。
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