愛執染着Rhapsody
告白
「野垣、俺と付き合ってよ」
何を言われたのか、分からなかった。
野垣薫は、人気の無い放課後の教室で、話したことも無い男に突然そう言われた。
目の前の男を知らないわけではない。
むしろ、学部の違う彼が自分を知っていた事に驚いたくらいで。
モデル顔負けの高い身長、美形と賞される顔立ち。
この一年、常に沢山の友人に囲まれているのを、校内でよく見かけた。
川口直人、その人だった。
「…いいけど、えっと、……どこに?」
実のところ、話しかけられたことにすごく驚いていて、彼の言葉を聞き逃したかもしれない。
ただ、薫に付き合って欲しい所があるのは分かったから。
薫がそう答えると、目に前の男は驚いたように目を開いたが、すぐに何か考えるように視線を床に落とした。
「…まあ、いいか」
暫くすると、直人は何か思いついたようで、そう言って薫に視線を戻す。
何がいいのか分からなかったが、直人がにこりと笑ったので、薫もつられて笑い返した。
いつも遠くからしか見えない彼の笑顔。
こんな近くで見れることがすごく不思議で、何故か心臓が煩い。
「約束だからな?」
「う、うん」
薫の返事に、直人は満足そうに微笑むと、時計を見て「あ」と声をあげる。
「じゃあ、俺はバイトに行くから。気をつけて帰れよ」
直人はそう言うと、教室から出て行ってしまって。
薫は半ば呆然と直人の後ろ姿を見送ったのだった。
「……あれ。どこに行くのか、聞くの忘れた」
2010.3.29〜4.14 拍手小話
加筆・修正してあります。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!