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愛執染着Rhapsody
大切な想い、大事な言葉


「そんな事……っ」


あるはずが無かった。
うまくは説明できないけれど、そんな事、絶対に。


「だって、避けてるだろ、俺のこと」

「…………っ」


言われてやっと気付く。

海里にだって分かったくらいだ。
本人が分からないはずがないのに。

直人に気付かれないようにできるほど、薫は器用でもなかった。


「嫌なら、そう言ってくれれば良かったのに………ごめん、俺しつこすぎたな」

「ち、違う……」


少し沈んだような声音に感じる直人の言葉に、薫は首を横に振る。


嫌なんて思うはずがなかった。
しつこいだなんて思ったこともなかった。


否定する薫を抱き込んでいた直人の腕が緩んだ。
あ…と思った時にはくるりと回転していた。


「違うなら……どういうこと?」

「―――――っ!」


肩に手をおいて、顔を覗き込むように屈んだ直人にそう問われる。

一週間避け続けていた薫にとって、その至近距離の刺激は強すぎた。

直人の整った顔、耳に流れ込んでくる声、肩に置かれた温かい手。

全てが、薫の心臓を鷲掴みにして揺さぶっていく。
一気に体温が上がった気さえして、薫はふるりと体を震わせた。

辛うじてすがりついていた平常心さえ、根こそぎ持って行かれてしまう。
殆ど無いに等しいものだったけれど。


「………き…」

「え?」


思わず漏れた呟きは届かなかったようだ。

聞き返してくる直人の、未だ自分の肩に置かれた手。
その腕に、震える自分の手を重ねた。


「すき。――――ごめん、でも、……好き」

「え?…ちょ、ま、……え?」


一度吐き出してしまえば、もう止められなかった。
ため込んでいた想いは薫が思っていたよりも大きかったらしい。

感情が高ぶって、涙腺が緩んだのが自分でも分かったが今更どうしようもなくて。
じわりと視界が歪む。
直人の焦ったような声が聞こえても、これでは彼の顔なんて見えるはずもない。


この一週間、本当は近くで聞きたかった声だった。
本当は無意識に探してしまっていた顔だった。

本当は。

触れて欲しい手、だった。


いろんな想いがごっぢゃになって、涙はそう簡単には止まりそうにもない。
ほろほろと泣き続ける薫に、直人はオロオロと手を上げたり下げたり伸ばしたり引っ込めたり――――。

しばらくそうしていたものの、上げた手をぎゅっと握りしめ……次の瞬間勢いよく薫を自分に引き寄せた。


「っ!?か、川口くん?」

「……もう、どうしようか」


びっくりして思わず問いかけた言葉は、直人に見事にスルーされた。
変わりにどこかぼんやりとした声が聞こえる。


「もっともっと、長期戦だと思ってたから…………」

「?」


何を言っているのかも、薫には分からない。

首を傾げながら続きを待っていると、体に回っていた直人の腕にぎゅっと力が入った。


「俺、野垣の事ずっと前から好きだったんだ」

「………え、えぇ!?」


直人の爆弾発言に、薫の涙も止まってしまった。
腕の中で直人を見上げて、驚きの声をあげるしかできない。

『ずっと前』だなんて、直人と知り合ったのはここ最近なのに。


「うん、まぁ……あんまり信じて貰えてないのはわかってはいたけど、さ」


自業自得かな、と苦笑いした直人が薫の顔を覗き込んだ。
その顔は、すごく真面目で。

圧倒された薫の喉がごくりと鳴る。


「野垣のこと、ずっと前から好きなんだ。俺と付き合ってください」


あの時のやり直しのように、直人がもう一度繰り返した。

その言葉に、薫は内心驚きつつもゆっくりと頷き――――。


「ぼ、僕も、川口くんが好きです。こちらこそ、よ、よろしくお願いしますっ」


やっとのことでそう答えて、目の前の直人の胸に飛び込んだ。

真っ赤になった顔をこれ以上見られないように。





END





2011.4.25〜5.17 拍手小話
加筆・修正してあります。




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あきゅろす。
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