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愛執染着Rhapsody
先の見えない追いかけっこ


「ちょっと待って!!」


そう言われて素直に止まる奴はそうそういない。

薫もそのうちの一人だ。

彼は今、大学の構内を全力で逃げていた。





本当にどうしようも無くなって、直人から逃げ出したあの日から一週間。

薫は、直人の全てを避けていた。

電話にも出ない。
メールも返さない。

挙げ句、構内で見かければ相手が気づく前に踵を返す。

これでもかというほどの徹底ぶりに、海里から怒られたくらいだ。

薫自身は、それが一番いい方法だと思ったのだ。

好きだと自覚したものの、落ち着いて考える時間が欲しかった。

姿を見るだけでも心臓が跳ねるのに。
……声なんて聞いたら、いつも通りではいられない。


だから逃げている。
今も、彼から。


後ろからは、自分の名前を呼びながら直人が追いかけてくる。
その差が段々と確実に縮んでいることに、薫は焦っていた。


このままでは捕まってしまう。

せっかくここまできたのに。

逃げなきゃ、逃げなきゃ。
そうじゃないと、僕は―――。


「――――野垣っ!」


ぱしりと腕を掴まれると同時に、ぐっと後ろに引かれて強制的に止まる。

そのまま手を引かれて近くの空き教室に押し込まれて……後ろから抱き込まれた。

余りのことに抵抗することも出来ずなすがままの薫は、しかし、逃げたい気持ちで一杯だった。


「……野垣。―――やっぱり、俺のこと嫌いだろ」


どうしたものかと考えていた矢先に、ぽつりとこぼされた言葉。

薫の思考がピタリと止まった。




2011.4.5〜4.24 拍手小話
加筆・修正してあります。


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