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愛執染着Rhapsody
誤魔化せない気持ち


土日は混むだろうからと言われてその日のうちに見た映画は、話題作なだけあってすごかった、と思う。


「…どうした?イマイチだった?」

「え?あ…ううん、そんなことないよ。えっと、ありがとう」

「そ?ならいいけど。……どういたしまして」


ソワソワと挙動不審な薫を不思議に思ったのか、不思議そうに直人がのぞき込んでくる。

かろうじて、なんとかお礼を言えたものの。
隣で笑っているだろう彼を直視出来ずにうつむいてしまった。

映画を見るまでは良かったのに。
薫だってその内容を楽しみにしてワクワクしていた。

なのに。

映画が始まると、直人がそっと手を握ってきたのだ。

確かに大丈夫だと言ったのは自分だった。
薄暗い映画館の中、誰に見られる心配もないし。
ここ最近二人だけになるとそういうことが多くなって、以前ほど動揺する事も少なくなっていたのも事実。

けれど今回ばかりは例外だった。

いつものように、軽く繋ぐのとは明らかに違う。



指を絡め取るようにしっかりと。
時折、薫の指をなぞるように動く直人の指。



それに気を取られ、あんなに楽しみにしていた映画の内容なんてまるで頭に入ってこなかった。

………なんて、口が裂けても言えない。

先ほどのことを思い出して、薫は顔を赤らめた。
ぞくりと体の奥から何かが沸き上がってくるような感覚に、体が震える。
むずむずするようなそれは、決して嫌な訳ではないのだが。

ただ、なんとなく落ち着かないだけだ。






「じゃあ、また」


いつものように駅で別れる。

バスに乗る薫を直人が見送ってくれる。
そのために、彼が1、2本電車を遅らせていることを、薫は実は知っていた。

何度か言おうと思ってはいるものの、いざとなるとそれができない。


本当は薫自身分かっているのだ。

言ってしまってこの一時がなくなってしまうかもしれないと不安に思ったり……こうやって、別れ際になると途端に寂しくなって、もう少し一緒にいたいな、なんて思ったりする自分がいるのも。


発車したバスの中、駅に向かって歩き出す直人の背中をみながら、薫は小さくため息をついた。



もう、認めるしかない。

いつの間にか直人の事を好きになっていたということを。





2011.1.9〜1.26 拍手小話
加筆・修正してあります。


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