愛執染着Rhapsody
味方は多いようです
ぎゃあ、と悲鳴に似たものが学食内に湧き上がった。
「わあぁっ!?」
同時に、叫び声を上げて頭を押さえた薫がガバッと起き上がる。
慌てて振り向くと、にっこりと全開の笑顔を浮かべた直人と目が合って、その瞬間何をされたのかわかってしまった。
「ひ、人前では…っ」
「しないって約束したのは、手をつなぐことだけ」
果たしてそうだったのだろうか。
それでも、その時の記憶が曖昧な薫は強く出れない。
それじゃあ、と口を開きかけた薫は、追加注文は受け付けませんとあっさり断られて撃沈した。
「……そんな、屁理屈…!」
隣良いよね、と当たり前のように座った直人を睨みつけるが、真っ赤になった顔では全く効果がないのは誰が見ても明らかだ。
「……っ、…こういう所でそれは反則だろ。俺にどうしてほしいわけ」
…というより、直人に対してだけ別の効果があったようだが。
片手で口元を押さえて、薫から視線を逸らす。
「…自重しろよ」
呆れたような海里の声は、果たして届いているのかどうか怪しいところだ。
「―――ってか川口、本気だったんだ…?」
「せやな、俺てっきり冗談かと思てたわ、堪忍な」
ふと、聞いたことのない声が聞こえて、薫と海里が直人から視線をそちらにずらした。
「いやー、最近えらいへこんでたみたいやから、ちと心配しとったんやけど…」
座った直人の後ろに、笑顔の二人が立っている。
取り巻きは何時の間にかいなくなっていたようだが、友人達は残っていたらしい。
二人とも直人の友人なだけあってか美形揃いで、薫は面食らい、海里はチッと舌打ちする。
彼らは楽しそうに、今度は薫に話しかけ始めた。
「こいつ朝からずぅっとご機嫌なんよ」
「え」
「―――俺達が軽く引くくらいにはね」
「あの」
「そういうわけやから――野垣くん?こいつのことよろしゅうな」
などと言うだけ言ってぽんと薫の肩を叩き、じゃあと去っていく。
口を挟む暇すらなかった。
嵐のようだと薫が思うのも、無理はないだろう。
「…なんだ、今の」
「関西弁の方が屋敷で眼鏡の方が酒井。…びっくりさせて悪いな、野垣」
「あ、ううん、大丈夫。なんか、いい友達だね?」
「そ?ありがとう」
海里の呟きを直人が拾った。
けれども直ぐに、薫を気遣うように隣に顔を向け、友人の非礼を詫びる。
自分達の仲を応援されたことに気づいていない薫は、友人達が純粋に直人の心配をしているのだと思いこんでいて、全く気にしてはいないのだが。
…俺のことは無視かよ。
はいはい、俺お邪魔だもんねー。
向かいに座っていた海里が、そんな二人を呆れた表情で見ていた事に、直人の笑顔に無意識に見惚れていた薫は気づかなかった。
2010.11.13〜12.7 拍手小話
加筆・修正してあります。
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