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Short story
落とし物





昼飯も食い終わって腹一杯。

屋上にいるのもな、と珍しくそう思ってぶらぶら散歩中。
俺の目に留まったのは。





なんとも奇妙な落とし物だった。




















『あなたの手が好きです。

大きな手のひら、長い指。

ゴツゴツしてるのに、優しいその手に触れられたいと思う私を、どうか許してください。





あなたの背中が好きです。

広くて、筋肉質で。

頼りがいのある、逞しいその背中に抱きつきたいと思う私を許してください。





あなたの声が好きです。

穏やかな話し声、楽しそうな笑い声。

低くて、でも耳に心地いいその声に、一度だけでいい、優しく囁かれてみたいと思う私を許してください。





あなたの全てが好きです。

あなたはどうか気付かないでください。
伝えるつもりもありません。

ただ、今まで通りでいられれば。
それだけは、どうかどうか、許してください。』





まるで懺悔のような、告白。

怖いとか、気持ち悪いとか。
そう思う人が大半だろうこの手紙。




でも、どうしてだろう。

俺には、ひどくうらやましかった。



俺の手。
喧嘩のしすぎで潰れた拳。

俺の背中。
今も残る、昔やられた傷。

俺の声。
確か、いい声だと言われたことはあるけど、果たして。



その紙をぺらりと裏返すと。

数学のテストの答案用紙だった。


「1-5 小林浩孝……78点。まあまあ、だな」


その間抜けさに、思わず笑みが零れる。
ホントに出す気すら無かったんだろう。

返ってきたプリントの裏。

それほど上手でもない字。



だけど。



それでも丁寧に書かれた、溢れるくらいの想いが俺の中に流れ込んでくるような気がした。

こんな風に、想われている奴が羨ましくて。
その熱が、欲しくて。


「…悪ぃな、欲しいものは何が何でも手に入れたい質なんだ」


持っていたプリントを丁寧に折りたたんで、着崩した制服のポケットにしまった。

これからのことを思うと、自然と笑いが込み上げてくる。










……さぁ、今から君に会いに行こうか。





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あきゅろす。
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