[携帯モード] [URL送信]

Short story
雨の日に


もうこのままでいいと流れる涙もそのままに歩いていた。
「そのままだと風邪ひいちゃうよ?」
身を打つ冷たさがすっと消えた。
「ウチにおいで?あったかいお茶くらいなら出してあげる」
そう言って傘をさしてくれた貴方に僕は恋をしたんだ。
#雨水濡という字を使わずに雨が降る情景を描写してみましょうか

《ツイッターにて流れてきたお題に答えたもの》











今日は朝から雲ひとつない青空が広がっていて、気持ちいいと言うにはちょっと躊躇してしまうくらい暑い日だった。


「………うっわ、サイアク」

「マジかよあり得ねぇ」


それが、突然の夕立。
最初はどしゃ降りだったのが、今は少し落ち着いてるけど……いつ止むのかは検討もつかないそんな感じ。

傘を持って来ていないんだろうクラスメイトは、窓の外を見ながら愚痴っている。
それはそうだ、だってこのままじゃ濡れて帰らなきゃならない。
雨のお陰で少し涼しくなった、なんて言う奴は少数派だ。


「何だよ伊本、お前嬉しそうだな」

「……え、そんなことないよ。あ、折り畳み傘持ってるからかな」

「うわ、なにそれ卑怯―――」


それから、僕みたいに運良く傘を持っているか、だ。


「彼女がいれば相合い傘もありなのになー」


口を尖らせるクラスメイトに苦笑いしか出来ない。
ということは、彼女がいないって言っているようなものだから。
敢えて口にしないでおくけど。


「ちなみに、入って……」

「かねーよ。ほら、傘ある奴はとっとと帰れ帰れ」

「だと思った。じゃぁ、お言葉に甘えて」


ヒラヒラと手をふる彼に手を振り返しながら、教室を後にする。


「………おかしいな、顔に出てたかな?」


玄関向かいながら顔に手をやる。
鏡がないから分からないけど、僕そんなににやけてたんだろうか。

――――心当たりが、ない訳じゃない。
雨が好き、というか嫌いじゃなくなった理由があるからだ。



あの人に逢えたから。



折しもこんな雨の日。
傘がなくて仕方なく雨宿りしながら帰ったあの日。
どうせ濡れるんだからと途中で走ることを早々に諦めて、トボトボと家までの道を歩いていた。
そんなびしょ濡れな僕に声をかけてくれたのが、あの人。

良かったら、と家に上げてくれてシャワーまで貸してくれて服まで乾かしてくれて。
あまつさえ暖かいお茶までいれてもらった僕は、聞かれるままに答えてしまった。
………泣いていた理由を。

今思えばなんてことない、当時好きだった人が彼女と相合い傘をしてたってだけなんだけども。
もちろん伝えるつもりもなかったし、勝手に失恋した気になってただけで。
ただそのときはなぜかすごく悲しくて、どうせ雨だしいいや、なんて思ってたから。

その時のことを思い出して、顔が熱くなる。
あぁ、ヤバイヤバイ、これじゃぁ一人で百面相してる怪しい奴だよ僕。

ふるふると顔をふって、気を引き閉めつつ校舎を出る。
あの時の経験から折り畳み傘を持ち歩くようになった。
それが今、ちゃんと役に立ってる。

完璧だな、なんて内心ほくそ笑みながら校門を出て………そこで足が止まってしまった。

校門を出てすぐ。
この雨のなか傘をさして立ってる人がいる。

見間違えようもない――――あの人だ。


「……え、なん………」

「雨が降ってきたからね」


僕の小さな呟きは、僕を見つけた彼にあっさりと拾われてしまった。
聞こえないと思っていたのに。


「また泣いてるんじゃないかと思って」

「そっ、そんな度々あるわけないよっ」

「そう、なら良かった」


思わずカッとなってしまったけど、彼の笑顔に毒気をぬかれてしまった。


「……ちゃんと傘も、持ってる、し……」


小さく反論して。
でも、彼の手にもう一本傘があるのを見て、迎えに来てくれたんだ……なんて思ったら顔が熱くなって恥ずかしくて下を向いてしまう。
本当は会えてうれしいのに、その気持ちを表に出すことはできなくて。


「その傘じゃ、君には少し小さいね」

「……」


肩が濡れてるよ、と笑いを含んだ声で言われて初めて、右肩が濡れていたのに気が付いた。
確かに折り畳み傘はその場しのぎだから仕方ないのかもしれないけど。


「そのままじゃ風邪ひいちゃうよ?」

「っ、あ………」


『あの時』と同じセリフ。

驚いて、思わず顔を上げるとくすくすと笑う彼と目が合った。
いつの間に近くに来ていたのか、さしていた傘を僕の方に傾けるように。


「ウチにおいで? あったかいお茶くらいなら出してあげる」


そう言えば僕が断らないことを知っていて言う彼は、明らかにこの状況を楽しんでる。
にこりと笑うその顔にもう何も言えなくなってしまった。

それをどう取ったのかは分からない。
さっきよりも距離を縮めてきた彼が、動けない僕の頬に手を当てた。
いつからいたんだろう、ちょっと冷たい。


「少し熱いね」

「…………意地悪」

「そうかな。心配してるんだよ、これでも」


それは、貴方に触れられているせい、なんて言えるわけないのに。
その手を振りほどけないのは、惚れた弱み、なんだろうなやっぱり。



[*前へ][次へ#]

15/16ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!