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Short story
向日葵と秋桜(擬人化注意)


「あ、秋桜」

「向日葵くん! こんにちは、今日もいい天気だね」


大学のキャンパス内で、秋桜が向こうから歩いて来たのを見つけて声をかけた。

2人とも次の講義が無くて、じゃあお茶でもするか、なんて誘ってみれば、散歩がしたいと提案してきた。
男二人で……とも思ったけど、まぁいいかと受け入れたのはただの出来心だ。


「風が、気持ちいいね」


隣を歩く秋桜がそう穏やかに笑う。

秋晴れ、というのだろう。
空は澄み切っていて、でも夏の照りつけるような太陽の日差しが好きな俺には、少し肌寒い。

そう言うと、今度はくすりと笑った。


「夏の向日葵くんは、上を向いていつも自信に満ち溢れてたもんね。なんだかキラキラしてたよ」

「そうか?」

「うん。それに背も高いから、一体どんな景色が見えてるんだろうって、思ってた」

「あんまり変わんないだろ」

「変わるよ、絶対。……まぁ、今は背中が丸くなっちゃってるみたいだけど……」


そう言われてみれば、最近は確かにこの風から逃げるように下を向いて歩いてるかも。
友人にも元気が無いって言われたしな。


「………悪かったな」


なんとなくばつが悪くて、小さく悪態をつく。

そんな俺に気付いたのか、秋桜が立ち止まった。
つられて俺も。

秋桜は、俺を見上げていた。


「そんなことない、そんなこと……」


何故か少し泣きそうな顔をして首を振っている。

目が合うと、彼は両手を伸ばしてきた。
俺よりもずいぶん小さい彼が、背伸びをして一生懸命。

その手が俺の両頬を捉えて、自然と屈む姿勢になった。


「……僕ね、ずっと、ずっと向日葵くんを見てたんだ。でも、向日葵くんはいつも前を見ていて僕には気付いてなかったけど」


声をかける勇気がなかった僕が悪いんだけど、と秋桜が自嘲したのを俺はただぼんやりと聞くことしか出来なかった。

だって、知らなかった。
彼がそんな風に思っていたなんて。


「だから……向日葵くんが声をかけてくれて嬉しかった。きっと下を向いてたから僕に気付いてくれたのかなって。向日葵くんには悪いけど―――嬉しかったんだ」


潤んだ瞳、わななく唇、そして高潮して淡いピンク色に染まった頬に心がざわめく。


「ち、ちょっと待って――――なんか今の秋桜、色っぽくて……っ」


落ち着かない、と彼の手を両手で掴んで自分の顔から外した。

なんかまずいことを口走ったような、というか手を掴んだままだとか、そんなことはこの際どうでもいい。

一瞬きょとんとした秋桜が、次の瞬間ふわりと花がほころぶようにはにかんだ。


「―――秋は、僕の季節だから」


そう言った秋桜の少し長い髪を、秋の涼しい風が巻き上げるように揺らした。

その時にちらりと見えた、彼の少し赤い耳や白い首筋に口づけたいと思ったのは―――もうしばらく秘密にしておこうと思う。





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あきゅろす。
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