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小説
英雄 II
※※※
二人のソルジャー
※※※


クラウドは動揺した。
いや、その場に居た者は動揺していた。
まず、目の前の光景を否定し心を落ち着かせようとする。
だが、それすらも嘲笑うかのように、気持ちとは裏腹に心臓は高鳴っていく。
頭はゾッとするほど冷え切っていて、逆に四肢は汗ばんでいた。

なんだ、これ。
今日はただの模擬試合のはずじゃなかったか?

訓練生は皆そう思っていたのだ。
グラウンドへ集合がかかったのは昼食後だった。
大方、現役兵士による模擬戦の見学だろう。
それでも胸は高鳴る。
剣や銃、そしてあわよくば魔法を扱う様を見れるかもしれないのだ。

そしてグラウンドへ出てみれば。
そこにはソルジャーが二人居たのだった。
3rdでも2ndでもなく。
最高位の1st。

「セフィロスにジェネシスだ」

誰かが呟いた。





「ふ。新鮮な感じだ。
皆俺たちを見て驚愕と羨望の眼差しを向けている」

集まってきた訓練生の集団を見て、ジェネシスはセフィロスに語りかける。
そのセフィロスは答えない。
ただ一点を見つめ、ジェネシスなどお構いなしだ。

「誰かを探しているのか?
ああ、さっきの話の少年か」

セフィロスは答えない。
肯定も否定もしない。
だがジェネシスは知っている。
これは肯定だ。
セフィロスの癖はよく知っている。
まあいい、と目を訓練生にもう一度向けた。
そして見つけた。
先ほどのチョコボ頭を。
金色の髪だけが集団の中から時折見える。
背が低いのだろう。
肝心の顔が確認出来ない。
少年が動く度に四方に散る金髪は、チョコボが餌を突ついている様に見え、ジェネシスは思わず笑う。
そしてようやく少年の顔が、訓練生の集団の影から確認出来た。

「・・・セフィロス。
チョコボはお前の探していた“クラウド”か」

「・・・」

またも答えず。
あのセフィロスが、ただの少年を気にかけているなど。
人に対して固執するなど、セフィロスを知る者にとっては驚きだ。
しかも、どこにでも居そうな田舎から出てきたガキだ。
小綺麗ではあるが。

だからこそ。
ジェネシスは余計に興味を抱く。
チョコボ頭が気になったのは確かだが、だがそれだけだ。
くだらない日常に、ぽっと現れた面白そうなモノ。
本当にそれだけだ。
トレーニングルームで、セフィロスやアンジールと剣を交わすこと以外、この神羅で心踊ることはなかった。
セフィロスもそうだと確信していた。

だが。
あのセフィロスがただの訓練生に興味を抱いている様子を見て、ジェネシスは愕然とした。

ーーーお前は英雄で何者にも囚われない存在

そう思っていたのに。
セフィロスに抱く思いは、たぶん一般の人間と変わらないと自覚している。
英雄。
ただ、それを己で超えたくてここまで来たのだ。

あの少年と何かしらあったのか。
確認する術は、セフィロスからは得られない。
ならば。

続々と二人のソルジャーの前に集まる集団を見ながら、ジェネシスは金髪の少年の事を考えていた。




俺はツイてる。
この数日の内に、ソルジャー、しかも1st三人に会う事が出来るなんて。
しかもその内の二人とは、直接言葉を交わしている。

夢にまで見た憧れの存在が目の前に現れたのに、何故か現実味がない。
フワフワとした感じだ。
雲が漂っているような。
多分、ほかの同期も同じなのだろう。
興奮している様子は肌で感じるが、皆顔はポカンとしている。

前に立つ身長のデカイ奴の横から、勇気を出して顔を出してみる。
すると。

「っ!!」

セフィロスと目が合った、気がした。
気がしたというのは、思わず反射的に隠れてしまったから。
そして"あの日"のこともある。
何故か後ろめたくなった。

教官の声がグラウンドに響いた。


2013.3.4

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