小説 講義 ※※※ 軍事講義の始まり ※※※ 「・・・イフ!ストライフ!!!」 クラウドはようやく己が、教官に呼ばれていたことに気づいた。 今の今まで、呆けていたのだ。 ここは神羅の新米兵士の訓練所である。 寮に近く、また神羅ビルへも兵士専用の道路が整備されていて便利であった。 訓練所も神羅ビルと同じく、外装もそうだが内装も素晴らしかった。 新兵は、軍事訓練に入る前に何週間かの軍事講義を受けなければならなかった。 その講義室も、まるで新兵と一緒に入荷したのではないかと言われる位傷が見当たらなかった。 また、空調も管理されていて過ごしやすい。 講義に集中させるためだろう。 教官にも、また兵士一人一人の席にインターネットが配置されている。 主に各自のパソコンのモニターを見ながらの受講であった。 教官によってはアナログを好む者もいて、教官が刷ってきたであろうプリントを使っての講義も偶にある。 クラウドはまだ受けていないが、軍事訓練のあとに汗を流す為のシャワーも完備されていたのを覚えている。 クラウドや他の新兵にとっては、完璧な訓練所であった。 「クラウド・ストライフ、私の話を聞いていたのか?」 先ほど呆けていたクラウドをたたき起こした教官が、クラウドに顔を近づけるように前かがみになり話しかけた。 「はっ!申し訳ありません!」 呆けていたのを認め、話を聞いていなかった事を素直に謝る。 嘘や虚偽は兵士には必要ない。 己の恥やミスを隠すための嘘の報告や偽りは、己だけではなく軍全体に影響を与える。 その一つのミスで作戦が潰れてしまうからである。 最悪、多くの犠牲を出すだろう。 その事を、講義に入り初めに口うるさく言われていたのを覚えている。 「良い身分だな、ストライフ。そんなに私の話は貴様にとって重要ではなかったか?」 チクチクと嫌味の混じった説教をされる。 だがここで表情を崩したり態度に出してはいけない。 少しの間耐えれば終わるのだ。 そして、耐えることは慣れていた、昔から。 「いいえ。大変申し訳ありませんでした! 以後気をつけます」 「以後ではない!いまこの瞬間からだ!」 「はっ!この瞬間から気をつけます!」 なんと馬鹿らしい会話だろうか。 思いながらも、席を立ち姿勢を正し教官の目を真っ直ぐ見つめた。 教官はクラウドの瞳を探るように睨めつけ、彼の本心を計った後、座るようにクラウドへ言いつけた。 はっ、と先程と同じように姿勢を正し、そのまま席に着いた。 気づくと、回りの同期がニヤニヤと笑っている。 もちろん、それも軽くかわせる位慣れている。 「またアイツだ」 「ああ、あのクラウド“ちゃん”か」 「ここはナヨっとしたヤツがくる所じゃねーよ」 と、よくもまあ己に聞こえる陰口だ。 どうせなら直接言うか、陰口なら陰口らしく聞こえないようにしてくれ。 奴らの顔を見ないように、モニターに集中する。 そんなことよりも、クラウドにはずっと心に引っかかっている事がある。 呆けていたのはそのせいだ。 講義の内容が変わったのか、共有モニターにはセフィロスの顔が映し出された。 そう。これが原因である。 英雄セフィロス。 クラウドの憧れの英雄。 クラウドはその英雄に大変失礼な行動をとってしまったのだ。 『覚悟はあるか?』 そう問われ、我を忘れ英雄に声を荒げ反抗してしまった。 しかも、 『あんたの傍で戦いたい!あんたの助けになりたい!』 などと、自惚れも甚だしい答えを返してしまったのだ。 それが一番恥ずかしく、取り消した記憶だった。 もちろん、反抗してしまったことを一番に謝罪したい。 だが、新兵の自分がもう一度セフィロスに会えるわけがない。 先日は本当に運が良かっただけなのだ。 それも一生分の運を使ったかのようだ。 クラウドがまた思考の迷路に入り込んでいた間に講義は終わったらしい。 教室がザワザワと騒がしくなった。 昼の講義はこれで終わりらしい。 午後から2講義ほどあるが、2時間ほどの昼休憩が入る。 丁度腹が減っていたのでモニターから己の識別カードを抜き胸ポケットにしまう。 神羅施設内では、この識別カードで全て足りるようになっていた。 社食や自販機、購買、本屋等々、全てカードリーダーを読み込ませる。 その金は毎月給料から差し引かれるようになっていて大変便利であった。 カードゆえおもいもかけない出費になることもあるらしい。 だがクラウドには浪費癖はないので、そこは安心だった。 教室を出ようと思ったが足が止まる。 出入り口に、先程陰口という名の嫌味を言っていた同期が数人立っていた。 無視して、通りすぎようとした。 「おい、クラウドちゃん。無視すんなよ」 「オトイレですかあ?女子は反対ですよ?」 更に無視をし、強引に彼らを腕でどける。 「おお、痛え」 「なに怒ってるの?あ、もしかしてあの日?」 「ああ、なら納得だ。早くトイレいきなよ」 下品な奴らだ。 女子にその言葉を吐いて見ろ。 彼らはクラウドより2,3年上のはずだ。 なんて幼稚なのだろうか。 「うるさい。俺に話しかけるな。 俺が気に入らないなら無視してくれ」 そういい残し、まだニヤニヤしている同期たちを押しのけて教室を出た。 「何なんだよ、あいつら」 教室を出た後、購買でパンと牛乳を買い外へ出た。 グラウンドの近くの大きな木の下の日陰に腰を下ろす。 先程の同期の言葉が、今になって腹立たしくなった。 昔からそうだった。 まず顔の事でからかわれた。 作りが女のようだ、と。 母からは、それは整っていて嫉妬しているのよ、と言われた。 それでも侮蔑がこもっている奴らの言葉は許せない。 クラウドのコンプレックスなったのは言うまでもない。 次に身体的なことで色々言われた。 筋肉がない。肩幅が狭い。腕力がない。 そして決まって彼らは言うのだ。 “女のようだ”と。 その言葉はクラウドだけではなく、女性兵士への侮辱にもなるのではないか。 一度そのように歯向かった事があった。 だが一笑されて終わりだった。 ならば、後は何を言われても無視を決め込むしかなかった。 一つ愉快だったのは、その同期が女性兵士に叩きのめされたことだ。 オリエンテーションでの講義実践だった。 そこで教官の女性に組み手で負けたのだ。 軍事訓練を受けている兵士なので、新兵より経験と格闘術が上なのは分かっている。 だがそれでも心の中で、ざまあみろと舌を出した。 パンを齧りながら景色を眺める。 ミッドガルは鉄のプレートで国の外周と空を囲んでいる。 その為空を見上げることは出来ない。 過ごしやすい整備された近代的な生活を保障されている。 だがその代わり、自然を簡単に見ることは叶わなかった。 セフィロスも同じ景色を見ているんだろうか・・・ そう考えて、はっとする。 俺、セフィロスのことばかり考えてる。 憧れの英雄に生で会い、直接会話をしたからだろう。 いまだに興奮が治まらないのだ。 そう自分で分析する。 己の失態を謝罪したい気持ちもある。 だがそれ以上に浮かれていた。 あの英雄に会えた。 そして改めて決心する。 必ず彼の傍に行く! その為には、無駄とも思える机上の軍事講義でも集中して取り組まねばならない。 本格的が軍事訓練に入る前に身体も作っておこう。 確か、神羅ビルに設置されているトレーニングルームは、神羅社員であれば誰でも使用可能のはずだ。 人が余り居ない時間を見計らい、今日から通うことを決意する。 パンを無理やり腹に入れ、講義室まで軽く走りながら向かう。 クラウドの姿はグラウンドから離れて見えなくなった。 木は今まで座っていた人物が居なくなり、寂しげに風に葉を揺らせていた。 その木を、建物の中から見つめていた人物がいた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |