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天地の竜
ニ.

「貴方という人は…。それでも奥州を纏める領主ですか?独眼竜が聞いて呆れる!」

小十郎が腹の底から冷えた声を出す。
現状と自分の立場を弁えぬ俺の言動に怒りが沸点を超えたのだろう。膝の上、握り締めた拳が震えていた。


「随分な言い草だな。では聞くが、…お前は俺の何だ?小十郎」

「……は?」

「同じ事を二度も言わせる気か?」

小十郎に負けぬ程の冷気を纏い左の眼で睨み付ける。そのまま答えを促すように小首を傾げれば、ふーっと一つ深呼吸をした後に小十郎が口を開いた。

「私は……政宗様の…竜の右目にございます」

「ya−。つまり、俺の背中を守るのがお前の役目だろ?それがどういう意味か解るか?」

「………」

「小十郎が死ぬときは、独眼竜が死ぬときだ。お前がいない世に生きる価値などない」

「政宗様…そのようなことをおっしゃらないでください」

「なら生きればいい。仲間が死のうが、病気になろうが…お前だけはじじぃになっても俺の側を離れるなよ」

「…政宗様……」

小十郎が険しい顔つきをして俺を見つめる。だが、その顔は今にも溢れ出してしまいそうな感情を必死に堪えているようにも見えた。


つくづく不器用な奴だ。

主君である俺や仲間の為ならば平気で命を懸けるような潔い男。

奥州よりも、民よりも、俺が護らねばならぬ全てのものより俺が護りたいと切に願うたった一人の男。

愛しい、俺の…竜の右目。





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