33 1曲踊り終わる頃には周りもだいぶ賑わっていて私たちだけが特別注目されることはなくなっていた。そんな中人の合間を縫って広間から抜け出した私とルシウス先輩は、今、人目につかない中庭のベンチにいる。ルシウス先輩が何も言わないから私も何も言えなくてただ沈黙だけが流れていた。 「…あぁ」 「…?」 「寒いのは苦手だと言っていたな…中に入るか?」 「あ、いえっ大丈夫ですっ」 いまは雪は降ってはいないといえど足元は一面真っ白な状態だ。それでも広間の熱気がすごかったこともあるし、今は寒さを感じられるほどの余裕もないしであまり気にならない。いよいよ意を決して口を開いたが先に言葉を発したのはルシウス先輩だった。 「今まですまなかった」 「え?」 「私の勝手に長い間付き合わせてしまったな」 「…そんなこと…ないです」 「クリスマスプレゼントと兼ねて今までの礼として受け取ってほしい」 「…?」 ルシウス先輩がポケットからだしたのは丁寧にリボンがかけられた小さな箱で、ルシウス先輩がきちんとクリスマスプレゼントを用意してくれたことが嬉しかった。それでも受け取れない。私の両手は動かなかった。 「…?どうした」 「…受け取れないですよ」 「何故だ」 「だって……」 お礼って、なんですか。やっぱり今日で私とルシウス先輩は終わりなんだと思ったら、とても受け取るような気持ちにはなれない。それにまだ終わらせたくもないし、好きでやってたんだからお礼なんていらないんです。 「私ルシウス先輩が好きなんです」 「…」 「ずっとずっと好きだったんです。だから嘘でも付き合えて本当に嬉しかったしまだ嘘でも終わりにしたくないから、だから…頂けません。でも、先輩が別れたいなら別れます。今までありがとうございました」 ルシウス先輩の反応を見るのが怖くなって早口に最後までそう言い終えると堪えた涙を隠すように私は立ち上がって走った。雪に足元を捕られて走りにくい。これだから雪は嫌い! 「待て、なまえ!」 「伝えたかっただけなのでっ…!」 「待ってくれ」 勿論すぐにルシウス先輩に追い付かれて手首を掴まれた。振り返れずに、自分の不甲斐なさに暖かい涙が頬を伝うのが解った。こんなめんどくさい女、私だって嫌だよ。ルシウス先輩もきっとそう思う。それなのに感じたのは後ろから全身が包まれた暖かさだった。顔を埋められているのか首元にルシウス先輩の吐息を感じる。 「泣くな」 「す、いませ…んっ」 「鳴かせるのはベッドの上だけで十分だ」 「…なっなな何言って、るんですか…?」 しゃくりあげながらゆっくりしか話せない私の言葉をルシウス先輩は遮ることも勿論しないで。ただただ泣きじゃくる私の耳元で小さく笑いが漏れる声がした。 「美しい女というのは泣き顔も美しいものなのか?」 「な、何言ってるんですかぁっ!」 「私にしか見せない表情なんだろう?こっちを向けなまえ。泣く必要は何もない」 その優しい声音と緩くなった私を抱きしめていた腕につられるようにゆっくりと振り返るとルシウス先輩が笑っていた。それはやっぱりまたいつものように見たこともない表情で好きすぎてまだ涙が溢れ出してしまう。折角のルシウス先輩の笑顔なのに涙で視界がぼやけちゃってる。 「なまえ、好きだ」 「…?」 「これからも私の傍にいてくれないか?勿論今度は真剣に、だ」 そういって私の左手の薬指にルシウス先輩は指輪を嵌めた。雪の上にさっきのリボンと小さな箱が無造作に落ちていることに気付く。先輩の言っていることが夢のようで信じられなくて、それでもこれは確かに現実のはずで。そう安心したらまた泣いてしまって、優しく抱きしめ直されて私もそれに一生懸命しがみつく。二人でいれば寒さなんて問題じゃないことを知った。こんなに、あったかいなんて。 ルシウス先輩の正式な彼女になった日であり、雪が大好きになったこの日を、私は生涯忘れることはないだろう。 ←→ |