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後悔(劉禅→尚香)


弓腰姫
私の義母はそう呼ばれていた。


実の母は病で私が幼い頃亡くなり、母と同じく父、劉玄徳の奥方だったもう一人の私の義母は、実の母よりももっと前、長坂坡で私を守り、井戸に身を投げた。



弓腰姫と呼ばれた義母が父の所へ嫁いで来たのは、赤壁での戦の後。劉孫の同盟を確固たる物にするためにだった。

義母は父と父娘程も歳が離れていて、父よりも私に歳が近かった気がする。
子供だった私が言うのも何だが、義母はまだ少し幼さの残る顔立ちで、だが、それでも何か凛とした、人を寄せ付けぬ様な雰囲気を纏った不思議な人だった。


勿論、臣下の中には彼女を良く思わない者もいて、陰で色々な事を言われていたのは、子供だった私でも知っていたことだったので、彼女が知らない訳が無かったが、幼かった私は、彼女が笑顔で居るから大丈夫、だと思っていたのかもしれない。

だが、今思うとそれは義子に心配させまいとして無理に明るく振舞い笑っていたのではと思われるのだが、今更気が付いたところで、謝ることも、労りの言葉もかけてはあげられない。
せめてもの救いは彼女と父の仲が良かった事だろうか。父が居たから彼女は壊れなかったのではと考えると父に感謝するが、それと同時に父を羨ましく思い、憎らしく思う私はやはり彼女の名前を呼ぶ権利は無いのだろうか。

蜀と呉の関係が悪化し、彼女が呉に帰ると分かった時でさえ私は自分の気持ちを伝えるどころか名前さえ呼べなかった。
私は最後まで彼女にとって、義子でしかなかった事に憤りを感じ、最後まで彼女に愛されていた父を憎らしく思っても、二人とも亡くなってしまったいまでは、なにもできないのだが。










後悔














あきゅろす。
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