すべて計算通りですけどね(諸月)
「諸葛亮殿は、どっちからなのだ?」
先の戦の勝利を祝う宴会で、随分酒を飲んだであろう馬超殿が私にそう問いかけた。
主語が抜けているその言葉の意味は私には分からない。
しかし、さっきまで馬超殿と話していた劉備殿も気になるといった様子で私を見ていたので無視する訳にもいかず、私は口を開いた。
「どっちから、とは?」
「俺と劉備殿がさっきまで話していた事だ」
そう言うが、私は二人の話を聞いていなかったので分からない。
そんな私に劉備殿が馬超殿の話を補足した。
「つまり、婚姻を申し込んだのはどちらからかと言うことだ」
「ああ、」
やっと理解した私に二人は好き勝手に想像と言う名の妄想を始めた。
「俺は諸葛亮殿からに点心を賭けよう!」
「うむ!私も馬超と同じだ!」
それでは賭けになっていないが細かいことは放っておく。
わくわくしながら答えを待つ二人に負けた私はゆっくりと口を開いた。
「そうですね、大したことでは無いのですが」
月英は一部で有名な才女だったので、私の他にも婚姻を申し込む方はたくさんいました。
月英は私も含めて、求婚に来た者たちに戦いを挑み見定めていたのです。
ですが、それまで私は戦うどころか力仕事もろくにしたことがなくて、そんな私が月英の攻撃を避けられる筈も耐えられる筈も無く、恥ずかしながら気絶してしまいました。
「此処は…、」
「私の家です。すみません、まさか気絶するとは思わなくて…」
「謝らないで下さい、月英殿。私が悪いのですから。しかし、負けてしまっては婚姻を申し込むことも出来ませんね」
「その事なのですが。私もこんなに弱い殿方を見たことがありませんでした。ですが、それでも諦める事なく私と戦った心意気は素晴らしいものでした。それに、」
「…」
「そんなに力が無くては、お一人で炊事洗濯をなさるのは大変でしょう」
「それは、月英殿…」
「月英と、お呼び下さい。孔明様」
「なんてこともありましたね」
「諸葛亮、そ、そんな事が…」
「と言うことは、婚姻を申し込んだのは月英殿か…」
私の話に驚く二人を見ながら、更に口を開いて言うが、劉備殿も馬超殿も、それを信じてはくれなかった。
すべて計算通りですけどね
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