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TOX短編
アルジュ♀(まんじゅう様リク)

共鳴なんてのは、惰性と言うか、同じメンバーで長期間行動を共にすると大体同じ相手と繋ぐ様になる。

少なくとも俺達はそうだ。

完全前衛の俺とジュード、臨機応変に立ち位置を変えるミラとレイア、後方支援担当のエリーゼとローエン。

今日もいつものペアで共鳴しながら、道すがら平原の魔物を狩る。


「来て、アルヴィン!」

「やっちゃおう、ミラ!」

「ローエン、一緒に…!」


一方では火の玉が踊り、一方では妖精が舞い、一方では空間がぐにゃりと歪む。

無惨に引き裂かれた魔物の死骸がぼたぼたと音を立てて撒き散らされるのを何と無く見ながら、その死肉の雨の隙間から、周囲を警戒する。

とりあえず此処等周辺の魔物は掃討したみたいで、辺りは静かなもんだった。


「アルヴィン」


降り注ぐ血の雨を浴びながら、ジュードが走り寄って来る。

黒い髪に黒い服、そこに赤い血を浴びてもあまり目立たないが、白い肌の上はそうもいかない。

頬に一筋流れるそれを指摘して、手袋で拭ってやっても、細い線だったそれが掠れて伸びるだけで消えはしなかった。


「皆も怪我は無い?有ったら言ってね、治療するから。小さな傷でも放っておいちゃ駄目だからね」


同じ様に周囲を確認して集まって来る仲間達を振り返って、声を掛けるジュード。

だが今や一騎当千の俺達、雑魚相手に油断する奴はいなかった様で、怪我をしたと申告する奴はいない。

治療云々より血で汚れた衣服を心配する女性陣の意見を聞き入れ、早急に街へと向かう事にした。

特に、ジュードとは対称で全体的に白いレイアの汚れっぷりは酷いもので。

このまま街に入っては騒ぎになってしまいそうで、とりあえずの処置として、俺のコートを着せてやった。


「有難うアルヴィン。ちゃんと気遣い出来るんだね」

「まぁね。デキる男はそういう所も完璧だから」

「ジュードが妬いちゃわない?」

「妬いてくれるなら儲けもんだよ」


ヘッドドレスを外し、こびり付いた血を拭き取るレイアと並んで歩く。

お気に入りと言うだけ有って、手入れするその表情は真剣だ。

花弁の1枚1枚を細かにチェックし、僅かな汚れも見逃さない。


「汚すのが嫌なら、戦う時は外せば良いだろ」

「戦闘の度外してたら面倒臭いじゃない」

「街の外を歩く時は着けない、とかにしたら良いんじゃ無いのか?」

「だってお気に入りなんだよ!いつだって着けてたいでしょ」


要するに、汚れない様気を付けるより汚した後適切に対処する方を選んでいるらしい。

俺の知る女は恐らく前者を選ぶタイプが殆ど、レイアは女子としては珍しい思考の持ち主だ。

ヘッドドレスを凝視しながらの歩行は多少足元がお留守になりがちで、少し歩く度に小石やら枝やら段差やらに躓いては歩調を乱す。

それが可愛らしいと思えて、いつもと違った地味な頭をぽんぽんと撫でた。


「レイア!」


ほのぼのした空気に、ほんの少し警戒心が緩んでいたのかも知れない。

ミラの厳しい声に顔を上げると、ヘッドドレスと睨めっこするレイアの側面に魔物の影。

流石にヘッドドレスから意識を外したレイアが応戦しようと、背負った棍に手を伸ばした。

1枚、いつもより余計に羽織っている事を忘れたまま。


「!」


俺のコートの内側に背負われた、身長とほぼ同じ長さの棍。

コートを脱がずに構える事は先ず不可能だ。

もたもたしているうちに魔物は迫り、今にも無防備なレイアに攻撃を仕掛けようとしている。

迷う暇も、勿論理由も無かった。

魔物とレイアの間に、大剣を盾にして立つ。

感じるだろう衝撃を覚悟して、吹き飛ばされない様脚に力を込めた。


「アルヴィン!レイア!」

「!ジュード…っ」


剣が魔物の攻撃を弾く、と思った瞬間。

眼前を青い光が遮り、黒い影が俺と魔物の間に割り込んだ。

ジュードだ。

両手の手甲で攻撃を弾くが、その軽い体では衝撃を御し切れずに吹き飛ばされる。

浮いた体は倒れ、しかしそのままくるりと回転して、着地した。

砂埃を上げて後退した小さな体に駆け寄る。

子供に庇われてしまった事が、大人として何と無く情け無い。


「悪ぃ、助かった」

「僕より、レイアは!?」


ジュードに手を差し出して立ち上がりを助け、振り返る。

心配は無用だった様だ。

レイアは既に棍を構え、容赦無く魔物を突きまくっている。

つまり、邪魔な俺のコートは地面に脱ぎ捨てられ、見事な程に埃にまみれていた。


「うーわ…」

「僕達も行こう、アルヴィン」

「へいへい。…ったく、どうしてくれんだ。メチャクチャお気に入りなのに」


ぶつぶつ文句を言う俺に構わず、ジュードはその俊足で一気に距離を詰める。

離れていく俺とジュードを繋ぐ青い光、細いライン、共鳴の証。

また一丁派手に決めますかね。

銃のハンドルを握る手に力を込めた時、ぷつり、と視界から青が消えた。


「……ん?」



















「油断は禁物ですと、以前にも申し上げましたよね、レイアさん」

「はい…反省してます…」

「アルヴィンが余計な気を遣うからこうなったんじゃないのー」

「余計って何だよ。この格好のまま街に入ったらどう考えても騒ぎになるだろーが」


魔物を片付けた後は、武器の準備に手間取って面倒を呼び込んだレイアへの、ローエンのお説教タイム。

ティポは俺に矛先を向けたがったが、流石にそれは言い掛かりだ。

ローエンは、素晴らしいお気遣いです、と俺に向けて微笑んだ。


「皆、怪我は?」


毎回恒例の健康チェックが始まると、あちこちから大丈夫だと声が上がる。

振り返ってみれば、攻撃を受けたのは最初の不意打ちを防御したジュードだけなのだから、怪我人が居ないのは当然だった。


「つーか、おたくは?」

「大丈夫だよ」

「…ふーん」

「なに、ふーんって。見てたでしょ、ちゃんと防いだから」


人の健康状態ばかり訊くが、今回1番怪しいのはジュード。

確かに防いではいた様だが、正面から見た訳では無いし何処かかすっていたかも知れない。

吹き飛ばされて転がった際に擦り剥いたという事も有るかも知れない。

だとしてもほんの小さな傷だろうが、ほんの小さな傷でも放置は駄目だと、それがジュードの口癖だ。


「怪しい」

「…怪しく無いよ」


頭が良いのに馬鹿とはこういう事か。

あんなにあからさまな事をした癖に。

俺には医学の知識なんかまるで無いがそれでも、解る事は有る。

ジュードは何処か怪我を負った、これはもう確信だった。


「脱げ、ジュード」

「…、は」

「おたくの服は血が解り難いからな。脱げ」

「何言ってるの、怪我なんて無いって」

「共鳴切ったろ」

「!」


共鳴は同色の光で繋がる2人の息を合わせる為の技術であり、互いの補助の為の技術である。

だがそこには、利点ばかりが有る訳でも無い。

毒や火傷といった症状も、共鳴を通じて相手に感染ってしまう。

何処までも一心同体、運命共同体、綺麗事じゃ無い所までそうじゃ無くても良いのにと何度思ったか。


「痛覚の伝達…。ばれるの嫌だったんだろ」


魔物に突っ込んで行く過程で共鳴を切るなんて、有り得ない。

そんな状況で共鳴を切られたのなら、切られるだけの理由が有る筈だった。

異常状態程極端では無いにしろ、共鳴中は多少の感覚も共鳴している。

治癒術の効果が伝染する様に、共鳴相手が受けた痛みも、少しだが伝わるのだ。

ジュードはそれを断ち切った。


「何処だよ。腕?脚?」

「だから、大丈夫だってば」

「ほんの小さな傷でも放置は駄目なんだろ。俺達には申告強要する癖に自分は隠すのか」

「…怪我なんて無いよ」

「今大丈夫って言ったよな。つまり怪我はしてるけど大した事じゃ無いって意味だろ」

「………」


あぁ駄目だ、苛々する。

何で隠す?

俺を信用して無いからか?

…そんなのは被害妄想で、ジュードが俺を信じてくれてるのはもう疑い様も無いし、只心配掛けまいとしてるだけだってのも解ってる。

それでも。

頼られないのが、頼ってくれないのが、寂しいんだ俺は。

明らかに言い負かされてる癖に、それでも口を割ろうとしないジュード。

その頑な姿が苛立たしくて、手甲を外した細い手首を力任せに掴んで引っ張る。

小さく声を漏らすジュードを無理矢理腕の中に閉じ込めて、抵抗を殺した。


「白状しろ。腹か?胸?」

「ちょっ…と、アルヴィン!」

「それとも…」

「やぁ、やだ、や…っ」


抱き込んだ体に手を這わせる。

片手は細い腰から前に回り、薄い腹、豊かな胸、華奢な肩。

片手は下へと下り、丸い尻、細い脚。

スカートの中に入り込んで柔らかい太股を撫でると、ぴくりと肩を跳ねさせる。


「…此処か」

「え、アルヴィン、やだってば…!」

「うっせぇ黙ってろ。…切れてる」

「……っ」


反応した箇所が良く見える様に、一度体を解放してしゃがみ込み、思い切りスカートを捲り上げた。

途端暴れ出す両脚にがっちりと腕を回して、再び押さえ付ける。

ばさりと頭にスカートを被り、タイツを穿いた脚を至近距離で見詰めると、其処には確かに傷が有った。

ほんの小さな傷が。

恐らく、弾いた攻撃が逸れた時に当たってしまったのだろう。

破れ目から見える血は、黒いタイツに染み込み遠目からは解らない。

隠そうと思えば隠せたそれ。


「ン、アル、…やめ、っ」


にゅる、と、たっぷり唾液を乗せた舌で傷口を舐める。

鉄の味が口内に広がるが不快では無い、これはジュードの命の味だ。

何度も何度も傷口の上を往復させて、血の色も血の味も消えた頃。

いやだやめてと言っていたジュードは、膝が崩れない様にかスカートを被った俺の頭にしがみ付き、辛うじて立っている状態だった。

その手を軽く叩き、頭を離させる。

顔を真っ赤にしたジュードに笑い掛け、最後に太股を撫でてから立ち上がった。


「はい、応急処置完了。ほんの小さな傷でも放置は駄目だぜ、医学生さんよ」

「〜〜〜っ…ばか!えっち!こんな所でっ…もう!」


涙目で叫ぶジュード。

あぁ、かわいい、愛しい。

その姿を見るだけで、さっきまでの寂しさも苛々も消えてしまう。

…全部が綺麗さっぱり消え去る訳では無いけど。


気ィ遣いでお人好し、他人の心配はするけど他人に心配されるのは嫌い。

そんなお前に頼られたい。

頼って貰える人間に、なりたい。


「ジュード」


青い光が互いを繋いで。

僅かな痛みが、太股に伝わった。













きっといつか、頼れる大人になるから













(今の俺は只のガキだけど。そう、子供のお前よりずっと、でも)
(いつか、きっと)

(…良い雰囲気っぽいけどさぁ)
(ああ。スカートに顔を突っ込むのは良く無いな)
(しかも公衆の面前ー)
(やっぱりヘンタイです…)
(思い込んだら一直線、子供そのものですね)













――――――――

まんじゅう様リク、戦闘中怪我したジュードと後々気付くアルヴィン、です。
…治癒術の存在が足枷になり、かなり行き詰まった結果がこれです…orz
ご不満かと思いますがこれが私の限界…!

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あきゅろす。
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