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TOX短編
アルジュ(灯夜様リク)
現パロ。

――――――――













ほんの3日前は、ちゃんと床の見える部屋だった筈だ。

両手いっぱいに持った幾つもの買い物袋を、重なり合う布の隙間から辛うじて見えるフローリングに置きながら、僕は溜め息を吐くしか出来なかった。

その溜め息を聞いて居たたまれなくなったのか、布団の上に胡座をかくアルヴィンが頭を掻く。

目が泳いでる辺り、悪いと思ってはいる様だが。


「アルヴィン、この3日間で食べた物を言ってみて」

「…見れば解るだろ?」

「解るとかじゃ無くて。言ってって言ったの」

「………」


テーブルの上に積み重ねられた、コンビニ弁当とカップ麺の空き容器、パンとスナック菓子の袋。

確かに見て解るし訊く迄も無い事だけど、ここはアルヴィンに答えさせなきゃ意味が無い。

答えさせて、理解させて、悪いと思うだけじゃ無く反省させなきゃ。

逃がさないと言わんばかりに睨んでやると、アルヴィンは項垂れながら口を開いた。


「…コンビニ弁当とカップ麺とパンと菓子です」

「自炊するって約束したよね」

「めんどいです」

「僕がこうやって作りに来るの、面倒臭くないと思ってるの?」

「え、めんどいと思ってんの?」


取り出したゴミ袋に、明らかなゴミを放り込んで行く。

とりあえずテーブルの上の食事の跡と、コンビニの袋とか。

穴の開いた靴下を捨てようとしたら、未だ履けるからと止められた。

…その穴を繕うのも、どうせ僕なのに。


「アルヴィンは面倒臭い事が、どうして僕は面倒臭く無いって思うの」

「だって、恋人に料理作るんだぞ。楽しくて仕方無いだろ普通」

「…そういうのってたまにだから楽しいんじゃないの?こう頻繁だと段々義務みたいになって、嫌になって来ると思うよ」

「義務って…」


床に散乱する服は部屋の一角に放り投げて、とりあえず纏める。

全てを其所に纏めたら脱衣所から脱衣篭を取って来て、詰め込んで、洗濯機にシュート。

こんな乱雑な管理しかしない衣類を、ネットだとか柔軟剤だとか、そんな丁寧な洗濯してやる必要は無い。

洗剤の量も目分量、兎に角早く終らせたくて、適当なコースを選んで洗濯を開始した。


「大体、何の為に約束させたか。もう作りに来たく無いからでしょ、普通に考えて」

「うーわ、随分冷たいな」

「アルヴィンが此処まで駄目男じゃ無ければ、きっと楽しいと思ってたよ」

「何それ。俺の何処が駄目男だよ」

「中学生に生活の心配されてる大人は立派な大人じゃ無いよね、少なくとも」


大雑把な片付けの末に漸く見えた床。

3日、ほんの3日前にこれでもかとばかりに綺麗にしてやった筈なのに。

たった3日でどうして此処まで汚れるんだ。

掃除するって、洗濯するって、料理するって、ちゃんと約束したのに。

先程床に置いた買い物を持ち上げてキッチンに行く僕を、アルヴィンは笑いながら見てる。


「僕に捨てられたいの?」

「まさか。絶対別れねぇぞ」

「だったらそれなりの態度とか、努力とか、見せてよ。僕これでもモテるんだからね」

「ああ、…よーく知ってるよ」

「引く手数多なんだから」

「引く手数多なのに、特に手引いて無い俺と付き合ってんのは何でだろうな?」

「………」

「ジュードの料理、好きだよ。食いたいんだ。出来れば毎日」


酷い部屋なのにキッチンだけはやけに綺麗で、3日前僕が片付けた時のまま。

本当にキッチンに立ち入らないんだ、アルヴィンは。

蛇口を捻って出て来た水で手を洗うと、その冷たさにはっとする。

駄目だ、流されちゃ。

アルヴィンは基本的に嘘ばっかりなんだから。


「自炊したく無いから、ご機嫌取り?」

「俺が俺の作った料理食っても気持ち悪いだろ。好きな奴の手料理食いたいっていけない事かよ」

「いつも自分で作るからこそ、たまの僕の料理が美味しいって事も有るよ」

「そういうのもアリなんだろうな。でも無理、俺我儘だから」


背後から伸びて来た手が蛇口を捻り、水を止める。

冷えた両手をアルヴィンの大きな手が包んで、伝わるあたたかさに、鼓動が高鳴る。

駄目だ僕、アルヴィンの事を想うなら、自分をしっかり持つんだ。

抱き締められて心地好いとか、耳元で名前呼ばれてぞくぞくするとか、そんなのに流されちゃ駄目だ。

僕は、アルヴィンを、甘やかしちゃいけない。


「ジュード」

「……っ」

「なぁ、ジュード。好きなんだ。お前も、お前の料理も。お前に愛されてるって実感出来るんだよ」

「アルヴィン…」


甘やかしちゃ、いけないのに。


「…もう…、仕方無いなぁ」

「サンキュ、ジュード」


もう、じゃ無いよ僕。

結局駄目だ、僕はアルヴィンに勝てない。

引く手数多な僕が、手を引かれて無いのにアルヴィンと付き合ってる理由、そんなの簡単だ。

好きになったのは、好きだと言ったのは、堕ちたのは、僕だったから。


「何が食べたい?」

「ピーチパイ」

「それはデザートでしょ…」


嬉しそうな笑顔を見てると、…それでも良いか、なんて思ってしまう。



やっぱり、恋は先に惚れた方の負けなんだ。













出逢った瞬間から、決まってた事













(本当は僕だって、作ってあげるの好きなんだよ)
(義務とか面倒臭いなんて全部嘘、でもアルヴィンの為にって)
(…きっとばれているんだろう、だから我儘なんて言ったんだ)

(素直じゃ無いね。思春期は大変だ)
(だからこそ大人が、導いてやんないと)
(…なんてな、我儘ってのも半分くらいは本気なんだけど)













――――――――

灯夜様リク、食生活乱れまくりなアルヴィンの所にごはん作りに行ってあげるジュード君、です。
…食生活どころか生活全般に乱れが見えますね/(^q^)\←
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あきゅろす。
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