TOX短編
アルジュ♀+バラ(匿名様リク)
大切な人なんて、母親1人しかいなかった。
マザコンと揶揄されても構わない、大好きで、大切で。
俺がどんなに汚れようと、どうしても望みを叶えてやりたかった。
それが俺の望みだった。
その望みが叶わなくなった時、俺は世界で独りになった。
そう、思った。
「ねぇ、聞いてる?アルヴィン」
俺を見上げる蜂蜜色が、ちょっと不機嫌に細められる。
怒ったり、笑ったり、呆れたり。
くるくると表情を変えては俺を映して、俺を捉えて、決して離さない。
俺を見守るその眼に気付いた時、俺は独りになんかなっていなかったって解った。
俺の大切な人は、此処にいたんだって。
「ああ、聞いてるよ」
「そう?それでね」
ふわり、微笑むジュード。
大切なジュード。
母さんと比べるつもりも、比べる意味も無いけれど、今は誰より大切な。
俺の手を取って歩く、その無邪気な姿がかわいくて、もっと笑って欲しくて。
だから俺はジュードの望みを叶えたい。
ジュードの望みを叶えたら、もっと笑ってくれるから。
「こんにちはー!バランさん、開ーけーてー」
「やぁジュード君、こんにちは。今日もかわいいね」
「やだ、何言ってるんですか。アルヴィンみたいですよ」
「ソレと同等は酷いなぁ。さ、入って」
「お邪魔しまーす」
ジュードの望みは俺の望みだ。
叶えられるなら叶えたい。
喩えそれが、他の男に会いたいって事でも。
「アルフレドも。久し振りだね」
「…おぅ」
…一応“マイ大切人物”の一角を担ってる従兄が、眼鏡の奥でにやりと笑う。
その眼を抉り取ってやりたいと何度思ったか、もう数えるのも面倒なくらいだ。
自分にとって大切な人同士が仲良しというのは、きっと良い事なんだろう。
そう、良い事なんだ。
現に今目の前に居る当人同士は、とても楽しそうに会話を弾ませている。
只1つ問題なのは、その会話の内容が俺にとって何らメリットが無いって事。
「ホントホント。昔は直ぐにお腹押さえてトイレに駆け込む繊細っ子で。何度紙が無ーいって呼ばれたか」
「ふふ、かわいい。今のアルヴィンからじゃ想像出来ないなぁ」
「お腹緩い上に頭も緩いんだよ。光葉のクローバーの話はしたよね、ああいうのとかしょっちゅう」
「それは今と同じですね」
「ジュード君それ酷くね」
想像はしてたけどやっぱそうか、バランさんに会いたいのってかわいくおねだりして来たのは、俺の純粋時代の武勇伝を聞き出す為か。
って言うかバランは仕事仲間なんだから、わざわざ俺に言わなくても会えるだろ。
そこを敢えて俺を同席させた辺り、…何なの、羞恥プレイかこれ。
「おいバラン、いい加減にしろよ」
「何で?嘘は言って無いよ」
「嘘じゃ無きゃ何言っても良い訳じゃ無いだろ。誇張も過ぎるし」
「誇張とは失礼な。物語を盛り上げる為には演出が必要だろ?」
何が演出か、尤もらしい事言いやがって。
確かに嘘は無いが、…恋人の前でかっこいい大人気取ってる俺としては、6歳未満のあの頃は黒歴史で。
つまりは知られたく無い過去なんだ。
ジュードはそんな俺の話を、かわいいだのもっと聞きたいだのと言うが、そこは俺の意思を尊重して欲しい。
プライバシーってもんが有るだろ。
「うーん。どうするジュード君?君のアルヴィンはあんまり黒歴史ばらされたく無いみたい」
「黒歴史って思ってんなら最初から語るなよ」
「昔の話は駄目か。じゃあ今の話する?」
「今の俺の何を知ってんのおたく」
「それもそうだ。じゃあ、そうだなぁ」
明らかに面白がってる顔してやがる。
ジュードを見た後俺を一瞥し、笑みをより深くして、またジュードを見る。
…何だその顔、すげぇ嫌な予感。
「俺の事を話そうか。ジュード君には、色々知って欲しいし」
「バランさんの事?」
「そ。日頃話すって言っても研究の事ばっかりだしね。ジュード君俺の歳も知らないでしょ」
「…そう言えば訊いて無いですね。何歳なんですか?」
「幾つに見える?」
「使い古された切り返しすんなよ…って、おいバラン!」
バランはにやけた顔をそのままに、ジュードの手を両手で握った。
ジュードは一瞬ぽかんとして、でも特に振り払うとかはしないで。
声を荒げた俺をちらりと横目で見ただけだった。
「歳だけじゃ無くて、他にも色々。例えば好みのタイプとか、ね」
「え…あの」
「ジュード君さ、エレンピオス勢にも評判良いんだよ。かわいいし気が利くし、この間の夜食ジュード君でしょ?皆気付いてたよ」
「え…、え?」
「料理上手で。勿論頭も良くて。スタイルも良いよね、俺巨乳派なんだ」
「!」
「これってセクハラかなぁ?気持ち悪かったらごめんねー」
「……っ」
ちょちょちょ、何だこの流れ。
好みのタイプって何の話だよ。
何でそこからジュードベタ褒めタイムに入るんだよ。
巨乳派だ?
つまり何だ、バランてめぇ、ジュードに。
「好み似てるのは従兄弟だからかな。…凄く、好きだよ」
「バランさん…?」
「ねぇ、自分の過去を隠したままの不誠実な男なんかより、俺にしない?源霊匣がちゃんと人に根付いたら、その時は」
バランは握ったジュードの手を自分の口許に遣って、その甲に恭しく口付けた。
まさに求婚といったその仕草は、我が従兄ながら、顔が良いからキマッている。
伏せた瞳が開いてジュードを捉えた時、ジュードの頬は真っ赤に染まっていた。
「バラン、お前」
「アルフレド、俺は真剣だよ。ジュード君に何もかも話せないなら、真摯に向き合って無いって事だろ。そんなんじゃ諦められない。ジュード君だって不安な筈だ」
「僕は…」
「俺は何も隠さないよ。全部答えてあげる。大切な人には、全部知って欲しいからね」
「…バランさん…!」
ジュードの瞳が潤んで、バランを見詰めている。
何だこの展開、バランは真剣なのか?
本気でジュードを想って、ジュードに全てを晒け出すつもりで。
それが真摯って事で、その真摯な姿勢がジュードの心を打つ、とするなら。
ジュードがバランに、俺なんかより強く、惹かれるかも知れない?
俺を好きじゃ、無くなる?
「…冗談じゃねぇ!」
「アル、っ…!?」
バランに掴まれている手を無理矢理引いて、細い躰を腕の中に閉じ込める。
バランに見せない様に。
バランが見えない様に。
誰が渡すか、ジュードは、俺の。
俺だけの。
「絶対離さねぇ!知りたいなら訊けよ、俺に。答えるから。お前の望みなら、叶えるから!俺が!」
「アルヴィン…」
「喩えお前でも、ジュードはやらねぇ。誰にも、やらねぇ」
「アルフレド」
「こいつは俺のだ!」
「………」
とんとん、ジュードの手が俺の背中を軽く叩く。
きつく抱き締めて苦しかったか。
恐らく緩めろという合図だろう、従って少しだけ力を弱める。
離れた事で見えた瞳は、うるうると潤み、やけに扇情的で。
うっすら開いた唇に誘われる様に、顔を傾け、目を閉じ、
…ようとした。
『ピピッ』
『録音を終了します』
唇が触れるまであと1pという所で、電子音と機械的な声。
それが聞こえた方を見ると、バランが何やら小さな機械を操作していた。
あれは。
「…なん…」
「録音機。言質は取ったよ、アルヴィン」
「は?」
「さて、これで心置き無く昔話が出来るね。まずは、そうだな。あれなんてどう?ピーチパイを作ってる叔母さんの手伝いをしようとした時の話」
「はぁ!?」
『知りたいなら訊けよ、俺に。答えるから。お前の望みなら、叶えるから!俺が!』
「ほらほら、言質」
「逃げられないよ、アルフレド?」
潤んだ瞳は何処へやら、今はとても楽しそうににんまりと緩んだ頬が至近距離に。
その笑顔とは裏腹に俺の胸ぐらを掴む力は半端じゃ無く、拒否は認めないという強い信念が感じられた。
大切な人同士が仲良しというのは良い事だ、それはそうだ。
だが。
限度というものが有るだろうと、痛切に感じる今日この頃だった。
頭脳派タッグの厄介な友情
(駄目だよアルヴィン、生の小麦粉はお腹壊すんだから)
(5歳だぞ、そんなの知る訳無いだろ)
(叔母さんも災難だよね。揃って3日間下痢だったんだよ、あの時)
(よもや自分の口から黒歴史を語る日が来るとはな)
(こいつらが組むとどうにもなんねぇ)
(…何でこんなに仲良いんだこいつら)
――――――――
匿名様リク、アルジュ♀でバランと仲の良いジュード、です。
…あんまり女体化が生きて無い…orz
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