温度差。 交換? 「………」 なんでこんなとこに末宮君が? 「やっぱり……」 「何だよオマエ」 さっきのニコニコ顔はどこへいったのか、鬼みたいな形相で男が末宮君に突っかかった。 「―――っ」 でも末宮君が睨むと、怯んだように一歩後ずさった。 気持ちはよく解る。 (怖……っ) 目が怖い。 特に態度に出してるわけじゃない。いつも通りの無表情なんだけと、目がすごく怖く感じる。 普段だって、高い身長と無口無表情と堅い雰囲気で、怖がられることもある末宮君だけど、 根が真面目で基本的に穏やかな末宮君が、こんな風に人を威圧するとこをボクは初めて見た。 初めて末宮君を怖いと思った。 「やっぱり榎原君だった?」 凍えた空気を破ったのは、今この場には似合わないんじゃないかっていうくらい穏やかな声。 「あ……」 「今晩は、榎原君」 その人は綺麗な顔でにっこりと笑う。 (先生) 白衣を着てないせいか少し印象違うけど、この綺麗な顔は間違いなく保健室の先生だ。 「びっくりしちゃった。こんな所にいるんだもの」 「え、あの……」 や、むしろこっちがびっくりなんだけど。 なんで先生がこんなトコに!? 「大丈夫。告げ口なんかしないから。っていうより…」 彼は末宮君をちらっと見て、 「ばれたら僕の方がまずい、かな?」 と言った。 (てことは末宮君と…) 生徒とこんな所に来たなんてばれたら、まずいどころじゃ済まないでしょ。 『内緒にしててね』と笑う先生にボクはこくこくと何度も頷いた。 「―――あの人は?」 先生が末宮君と対峙している男を見て、内緒話をする様に言った。 「あ、えっと……」 「前話してた好きな人?」 問われてボクはぶんぶん首を振って否定する。 「ゆ……ゆきずり?」 になるのかな? こういうのって。 そう答えると、先生はちょっとびっくりしたようにボクを見て、それから何か考えるように唇に指を当てて黙り込んだ。 「誰でもいいの?」 しばらくそうしていて、ふいにそう訊いてくる。 や、べつに誰でもってわけじゃないけど…… どう答えたもんか悩んでると、 「ね、交換こしない?」 って先生は笑った。 …………………… 「はい?」 ――――こうかん? [*←back][next→#] |