温度差。
失恋には
「諦めたいの? じゃあ…新しく恋してみたら?」
よく言うでしょ。失恋には……って。
先生は言う。
「新しい恋かぁ」
出来るかな。
学人に失恋した時は、慧がいたけど…
今は?
「例えば、君の側にいる人かもしれない」
考えてみて。と先生がボクの目を手で覆う。
先生がゆっくり話すのを聞きながら、ボクは目を閉じる。
「いつも何も言わず君のことを見守ってる。誰よりも大切にしてる」
先生の綺麗な声が、静かにボクの中に堕ちてくる。
「きっと君を、宝物みたいに想ってる」
まるで何か不思議な魔法でも掛けるみたいに、その声はボクの内に響く。
けどなんでだろう。先生の声がどことなく苦しげな感じがするのは。
「優しくて、真っ直ぐな人」
ボクのことを、誰よりも大切にしてくれる、優しい人。
「そんな人に恋したら、きっと幸せだろうね」
「………そうだね」
そんな風に想ってくれる人がいたら、その人を好きになったら。
こんな悲しい気持ちにならずにすむのかな。
「きっといるよ」
先生が覆ってた手をどけた。
「今は疲れててそういう気持ちになれないかもしれないけど、君を好きだって言ってくれて、大切にしてくれる人はきっといるから」
だから、
と言った先生の言葉がが止まる。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
先生が身体を傾けて、ボクの耳元に顔を寄せる。
「――――」
先生が呟くのと、チャイムが鳴り終わるのと、保健室のドアが開くタイミングが重なった。
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