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温度差。
その頃の学人
    

「大丈夫かな…」
 浴室に入って行った幹也を見届けて一人呟く。

 失恋した(?)ばかりの幹也に対して、無神経だっただろうか。

(最近ずっと落ち込んでるからな)

 幹也は大切な友人だ。
 いつまでも元気がないのは心苦しい。
 かといって、自分に何が出来るわけでもないので、ただ早く幹也が元気になるよう願うだけだ。

『チャーチャチャチャー…』

 部屋に電子音が響く。
 幹也の携帯だ。

 人の携帯を勝手に見る趣味はない。
 が、
「………」
 ディスプレイに表示された文字に思わず目が留まった。
 おそらく今自分は険しい表情をしているだろう。


 幹也がいつも携帯を気にしていた事には気付いていた。

 相手が誰なのかも。

(幹也の話からすると別れてから1ヶ月は経ってるはず)
 それなのにこのしつこさはなんだ。
 別れたいと言うなら素直に別れてやればいいのに。

 セックスフレンドとはそういう関係じゃないのかと思う。
 少なくとも俺の知るそういう人種は、簡単にくっついたり別れたりする人間だった。



 3分くらいで呼び出しが切れて、数十秒と開けずにまた掛かってくる。
「はい」
 その繰り返しが四度目になったとき、苛ついて思わず通話ボタンを押してしまった。

『………誰?』
 幹也の声じゃないとわかって、相手が訊いてくる。
「今晩は。館野です」
『………』
「幹也、今風呂に入ってるんで」
『――――あそ』
 名字で通じるかとは思ったが、不機嫌そうな声からして解ったのだろう。

「あの」
 そのまま通話を切られそうなところを呼び止める。
『何』
「もう止めて貰えませんか」

 これ以上携帯を見て辛そうな顔をする幹也を見ていたくない。

 こんなふうに頻繁に連絡を寄越したりするから、幹也はいつまでも吹っ切れずにいるんだ。

「幹也は貴方と別れたいと言ったんです」
 いつまでもしつこく連絡したりしないでください。
 そう告げると、向こうは暫く黙ったまま何も返して来なかった。




『…れは………』
 このまま待っていても埒があかないと通話を切ろうとしたとき、低く何か呟かれた。
「?」

『それは、お前があいつの恋人だから?』


 だからもう止めろって?

 そう訊かれて、なぜか苛立ちを覚えた。
 どんな誤解かは知らないが、"そうでないならお前には関係ないだろ"とでも言いたいんだろうか。




「だったら何だっていうんです」


 それだけ言うと、俺は通話を切った。
 
 
    

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あきゅろす。
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